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ただくまー
春風が桜の花びらを舞い上がらせる中、山田優一は背筋を伸ばした。
「待ち人来らず」
優一はつぶやいた。
放課後の教室で待ち合わせをした相手——佐藤みなみは、スマートフォンを片手に姿を現した。「おまたせ〜!ちょいマブ待たせちゃった?」
「いえ、私こそ突然お時間を頂戴し、大変申し訳ございません」
「マジやば、なにその敬語」
みなみは一瞬、目を瞬かせた。
「失礼ですが、ちょいマブとは…?」
「ちょっと待っててブーメランの略!
ちゃんと戻ってきたでしょ?」
優一は理解に苦しみながらも一歩前に出る。
「佐藤さん。本日は、私の気持ちを
お伝えさせていただきたく…」
「えっマジ? リアタイで告られてる?
しかもめっちゃガチメ!」
「ガチメとは…?」
「ガチメンタル!真面目すぎて私、バクアゲ!」
「バク…アゲ…?」
「爆上がり!心臓の鼓動が爆発的に上がってるってこと!」
みなみは頬を赤らめた。
教室に夕陽が差し込み、二人の影を床に落とす。「私も、好き。てかもうイケメソ過ぎ!」
「イケメソとは…?」
「イケメンソウルよ!
中身がイケメンってこと!」
優一は深々と頭を下げた。
「このたびは、大変光栄に存じます」
「もうマジ無理!つーか、
スイポ行かない? めっちゃリラゲだよ!」
「スイポ、リラゲとは…?」
「スイーツポイントとリラックスできる景色!」みなみは笑いながら言った。
「これからたくさんキセツを作ろうね」
「キ、キセツとは…?」
「記憶のセツナ!大切な思い出の瞬間ってこと」
「少々お待ちください、すぐ終わりますので」
優一は、スマホのメモの新規タグに「みなみさんの略語辞典」と打ち込んだ。
そうして、略語女子と敬語男子の恋は始まった。桜の花びらが二人の会話のような軽やかなリズムで舞い続けている。


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