「おれの曲に拍手する奴らを機銃掃射で、ひとり残らずぶっ殺してやりたい」と酔っぱらって作曲家は言うのだーー谷川俊太郎「北軽井沢日録」より(『世間シラズ』所収、1995年)人が私に同意するときはいつも、私は自分が間違っているに違いないと感じる。Whenever people agree with me I always feel I must be wrong. (オスカー・ワイルド『ウィンダミア卿夫人の扇』1892年)人が二十年もかかって考えたことのすべてを、それについて二つ三つのことばを聞くだけで、一日でわかると思いこむ人々、しかも鋭くすばやい人であればあるほど誤りやすく、真理をとらえそこねることが多いと思われる。(デカルト『方法序説』)フランスにブルバキという構造主義数学者集団があった。この匿名集団の内密の規約は、発表が同人にただちに理解されれば己の限界を悟って静かに退くというものであった。出版と同時に絶賛される著者には、時にこの自戒が必要であろう。(中井久夫「書評の書評」)