絵描きでもあったデイヴィッド・リンチの映像作品はどれも「絵画的」であり、一枚絵を思わせた。絵画ならば、なんらかの意味やストーリーを読み取るのは積極的に鑑賞者に委ねられる。絵から明瞭なナレーションが流れてくるわけではない。リンチのドラマや映画の不可解さ、不思議さ、そして最大の魅力は、この「語らなさ」にある。しかも彼の頭のなかに広がるのは、理路整然としたロジカルな世界とは対極にある、スキゾフレニア(統合失調症)的な幻想的空間だ。登場人物やシーン、セリフの関係性、整合性の有無など、あるようでないし、ないようである。それは我々の「夢」の世界そのものだと言っていい。通底音として聞こえるノイズや悲鳴、不協和音、そして幻覚のようなイメージ。甘い香りすら漂ってくる、謎多き魅惑的な夢は、リンチの、リンチたる、リンチゆえの、リンチしかつくれない世界だ。初の長編映画監督作品『イレイザーヘッド』からしばらくはカルト的なポジションにいたが、やはり世界的に誰もが知るようになったのは『ツイン・ピークス』からだろう。相方のマーク・フロストとのタンデム制作により爆発的にヒット。ローラ・パーマーの死をシンボルに、架空の町ツイン・ピークスのしっとりとした陰鬱な空気感のなか、魑魅魍魎のキャラクターたちによる奇妙奇天烈なストーリーを展開し、多くを熱狂させ、ブラウン管に釘付けにした。オリジナルからだいぶ経ち、昨年になってようやくツイン・ピークスの続編「リミテッド・イベント・シリーズ」を観て、久々に悪夢にやられたところだった。唯一無二の独創的アーティスト。“毒”創と言った方が相応しいかもしれない。今ごろ、あの赤い部屋の椅子に座って、ローラ・パーマーと意味深な会話をしているのだろうか。これから、甘いドーナツと熱いコーヒーを買いに行こうと思う。#デイヴィッド・リンチ #ツイン・ピークス