季節が流れる、城寨が見える ♯ 63#ランボー詩集 #中原中也訳 若夫婦 部屋は濃藍の空に向つて開かれてゐる。 所狭いまでに手文庫や櫃! 外面(そとも)の壁には一面のおはぐろ花 そこに化物の歯茎は顫へてゐる。 なんと、天才流儀ぢやないか、 この消費(つひえ)この不秩序は! 桑の実呉れるアフリカ魔女の趣好もかくや 部屋の隅々には鉛縁。 と、数名の者が這入つて来る、不平面した名附親等が、 色んな食器戸棚の上に光線(ひかり)の襞(ひだ)を投げながら、 さて止る! 若夫婦は失礼千万にも留守してる そこでと、何にもはじまらぬ。 聟殿(むこ)は、乗ぜられやすい残臭を、 とゞめてゐる、その不在中、ずつとこの部屋中に。 意地悪な水の精等も寝床をうろつきまはつてゐる。 夜の微笑、新妻の微笑、おゝ! 蜜月は そのかずかずを摘むのであらう、 銅(あかがね)の、千の帯にてかの空を満たしもしよう。 さて二人は、鼠ごつこもするのであらう。 ──日が暮れてから、銃を打つ時出るやうな気狂ひじみた 蒼い火が、出さへしなけれあいいがなあ。 ──寧ろ、純白神聖なベツレヘムの景観が、 この若夫婦の部屋の窓の、あの空色を悩殺するに如かずで ある!