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アートとかの日記帳

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道立近代美術館にて、歴史上の人物が創造的な役割を果たした瞬間を「星の瞬間」と題し、北海道に関連した作品を過去(学芸員による調査)と未来(所蔵品からひらめきを得た現代アート)の両方でアプローチした面白い特別展がはじまりました。
この展示会の謳い文句のひとつに「学芸員が調査しまくり、書きまくる!」とあるのですが、本当に濃密な文字情報の連続で、作品の成り立ちを深く知ることができて楽しかったです。
画像は片岡珠子の面構(つらがまえ)シリーズの葛飾北斎。大胆な構図に大胆な筆致、そして大胆な色遣い。片岡珠子らしい名作で、会場の中でも異質な存在感を放っていました。
このシリーズのコンセプトは「人間の魂を描く」というもので、これからの未来でも影響を与えるだろう偉人たちをモチーフに、綿密な調査を行い、独自の解釈で描かれます。
西洋画は見たものをそのまま描くのに対し、日本画はスケッチしたあとに一度持ち帰り、対象から距離を置いて画家の解釈や主観を交えた作品を制作するのが普通です。この面構シリーズは現代に伝わる偉人の肖像画からひらめきを得て、時代という距離を置いたうえで、珠子自身の解釈を交え、未来に繋げているシリーズのように思います。
学芸員による調査も大変興味深かったですが、ただ見るだけでも十分楽しめる展示でした。
#美術館 #アート #GRAVITY日記


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中村彝(なかむらつね)という画家を知ってる人は少ないのではないでしょうか。37歳という若さで亡くなったため作品数は少なく、何か団体をつくったとか新たな技法を開発したとか、そういった功績はありません。ただ傑作が残るのみです。
結核を患い、夢だった軍人を諦め、家族はおらず天涯孤独の身。洋画の道を志しましたが、当時は資料もなければ実物を目にした者もおらず、日本画優遇の時代で洋画は大変厳しいものでした。本当は留学したかったのでしょうが、経済的にも身体的にも難しかったのではないかと思います。
しかし、執念にも似た西洋画への渇望から、レンブラントやルノワール、セザンヌといった巨匠たちを模倣し、重要文化財に指定されるような傑作を作り上げています。
この絵は晩年の自画像で、顔はルノワールっぽく描かれ、全体的にキュビスムと宗教画の影響が見て取れる作品です。
個人的に衝撃的な絵でした。絶望でも諦観でもなく、死を知った者特有のこの表情は「聖人のよう」と評されており、その言葉がピッタリのように思います。私の家族も生死を彷徨ったあと、別人のように顔が変わりました。死というのは避けては通れない絶対的なもので、全生物に共通する根源的なもので、そして気高く美しいものということを再認識させられる不思議な絵です。
言葉ではとても言い表せないので、実物を見にいくことを強く勧めたい作品です。
茨城県近代美術館にて1/13まで見れます。
#美術館 #アート #GRAVITY日記


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個人的に、画家の人間関係は鑑賞の際の見どころの一つだと思います。意外なところに繋がりがあると、その画家の思いがけない影響力が魅力に繋がっていきます。
浅井忠は初期の洋画界の重鎮です。後進には梅原龍三郎や安井曾太郎といった大物画家が並びます。そのほかにも浅井忠から薫陶をうけて教育者となった画家はたくさんおり、そんな彼らから教わった画家も当然いて、そしていまにつながっている…そう考えるとなかなか感慨深いものがあります。
浅井忠の師であるフォンタネージがバルビゾン派に強く影響を受けていたことから、浅井もこの作品のような風景画を多く手がけています。「自然に学べ」という師のことば通り、さまざまな場へと赴き描く。この教えは後進へも引き継がれ、今では当たり前のようになっていますね。
浅井忠の人脈の太さは陶芸や政界にも及んでおり、数々のビッグネームの登場は驚きの連続でした。
千葉県立美術館で1/19まで見ることができます。
#美術館 #アート #GRAVITY日記


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『わたつみの豊幡雲に入り日さし、今夜の月夜晴明こそ』
訳:海上に豊かにたなびく雲に落日が輝き、今夜の月は清らかであってほしい。(サイトから引用)
という天智天皇の歌を絵にした物です。現代だと短歌と日本画のメディアミックスですね。
中村岳陵は土佐派や狩野派を学んだ後に、後期印象派に影響を受けた日本画家で、1934年制作のこの屏風も明らかに印象派の影響を受けているように見えます。
どこか物寂しさを感じる夕日を描いた作品で、ちょうど今の季節、小学生の頃に遊び疲れて見た夕焼けもこんなだったなと思い出しました。
短歌とともに日本人の感性が詰まった作品だと思います。
ちなみに岳陵の晩年作は写実っぽくなるのですが、私はそっちの方が好きで、いつかコレクションに加えたいと思っています。
近代美術館で12/22まで見れます。
#GRAVITY日記 #美術館


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手塚雄二氏は今生きている日本画家の中で五指に入る実力と人気を誇る画家と私は思っています。他の現代日本画家と比べても頭ひとつ抜けた高価格帯で取引されており、卓越したグラデーションによる表現が非常に人気の画家です。
画像のこの作品も同様に、静かに波打たれる浜辺が丁寧に丁寧に屏風に描かれています。仄暗く静謐な雰囲気が漂い、私も彼岸と此岸を繋ぐ三途の川もこんな感じなのかもと思いました。(この作品は海ですが)
日本人は白黒つけるのが苦手なので、印象派のようにぼやっとした絵画が好き、という話を聞いたことがありますが、やはりグラデーションを好む民族なのかもしれませんね。
11/17まで横浜そごう美術館では、お寺に奉納されて仏画となる、手塚雄二氏が手がけた巨大な龍の天井絵とその他50作品を見ることができます。
疲弊した現代人に染み渡るような絵が多く、手塚先生は話も面白いので、ギャラリートークの日もおすすめです。


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個人的に推しの彫刻家です。
国際的な評価を受け、1964年には日本を代表する文化人に選出された流政之。そんな彼の代表作がこのサキモリで、その名の通り防人、国を守る人の意味。ヒトをかたどっていて、中が空洞になっているのは腐敗する内臓を取り除き、精神だけで立つ人を表現しているそう。
実は、流政之は元零戦パイロットで、平和や国防に関してはものすごく強い思い入れがあったのだと思います。
このサキモリたちがいる北海道知事公館には、子どもたちが家族と一緒に遊んだり、食事をとったりしていて、とても穏やかな空間になっていました。
流政之が願っていた平和がそこにあって、少し涙が出そうに…
#アート #GRAVITY日記


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国宝に指定されている十二幅のうちの一つ。
国宝は刀であれ能面であれ、何か神秘的なオーラを持っていると私は思います。
この絵もそうで、何がすごいのかといえばまずその写実性。狂気的ともいえる細部までの作り込みは畏怖を感じるほどで、鶏冠もただ朱色が塗られているだけではなく、よく見るとちゃんとブツブツが描いてあります。
実は日本画の画材で写実を描くのは、油絵よりも遥かに難しく、色粒を油でくっつける作業なのでグラデーションが上手く作れない、混ぜても粒子の比重の違いで思った色にならない、そもそも10色以下しかない、など技術的なハードルがとにかく高く、画家の実力が如実に現れます。
これらの画材の問題をすべてクリアしたのが若冲であり、その超絶技巧はまさに神業としか言いようがありません。
赤と青のコントラスト、王のような堂々とした雄鶏。斬新でカッコよくて美しい、国民の宝に相応しい作品でした。
道立近代美術館で10/27まで見れます。
#アート #美術館


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イチローvs大谷翔平
宿儺vs五条悟
ロジャーvsシャンクス
みたいな世代間最強同士の激アツバトルって感じなんですよ。
#アート #ニュース


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美人画の名人として知られ、今なお高い人気を誇る鏑木清方。実はその元になった技術は江戸時代の歌川国芳のものです。
歌川国芳→月岡芳年→水野年方→鏑木清方→伊東深水と続く流れは彼らの住む町から玄冶店(げんなだな)派と呼ばれており、美人画を江戸から現代に伝えています。
清方の特徴はなんといってもその時代における風俗的な雰囲気かなと思います。この絵は商家の姉妹2人が秋に山へと赴いている様子で、左の姉はキセルを持って紅葉を見ながら黄昏れ、右の妹は籠の中で寛いでいるのか、姉のタバコ休憩を待っているのか…
当時のタバコ事情は、武家の娘はあまりせず、商家や農家の娘はやっていたそう。今ならアイコスになるのかもしれませんね。
#アート #美術館



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この作家を知っている人はそんなに多くないと思います。瑛九は宮崎県出身の画家。印象派、キュビスム、シュールレアリズム、写真、版画などなど研究し、そんな飽くなき探究心とともに戦後日本の美術界を牽引した人物です。
画像は晩年作で、つばさを点描で表現した抽象作品。100号ほどの巨大なキャンバスに堂々と描かれていて、包み込まれるような錯覚を感じるほどの逸品でした。
キュビスムやシュールレアリズムで培った構成に温かみのある光を意識した印象派風の点描技法は、おそらく瑛九の集大成だったのではないかと思います。
48歳という若さで亡くなった瑛九が、あと10年長く生きていればもっと多くの作品が生まれ、もっと多くの人が感動しただろうなと思わずにはいられませんでした。
横須賀美術館で11/4まで見れます。
#アート #美術館



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魂、スピリット、神、宇宙。
スピリチュアルすぎるかもしれませんが、そんな人智を超えた存在を絵の中に表出させることが日本画で、そういった絵を目指せと大観は他の日本画家たちに説いていました。
さて、画像の絵画は少し前に東京都美術館であった現代日本画の祭典、院展の作品です。
私には魂や神が宿っているように見えましたが、皆さんはどう感じるのでしょうか?
院展は全国を巡回中です。
#アート #美術館



