「文学」と「文芸」。よく似た言葉だが微妙に語感が異なる。「文学」には高踏的で潔癖な響きがある。「文学」とは〈わたくし〉の真実に執するものだと思う。一方「文芸」は雑多なものを受け入れてくれるような感じ。私は、俳句は「文学」ではなく「文芸」だと思っている。俳句にしなければ無かったことになってしまう、そんなできごと。この軽やかさこそ俳句の醍醐味。片栗の一つの花の花盛り 高野素十雪吊りのはじめの縄を飛ばしけり 大石悦子しめ縄のごときもの垂れ鴉の巣 石崎白泉鉛筆を落せば立ちぬ春の土 高濱虚子