俳句の愉しみ 五(改) 座右之銘 人の短をいふ事なかれ 己が長をとく事なかれ 物いへば唇寒し秋の風 芭蕉 Monoieba kuchibiru samushi aki no kaze 芭蕉は俳諧師の一人であった。俳諧とは現代では連句と呼ばれている。複数の人が句を連ねる遊びであった。形式的には連歌と同じであるが庶民の言葉を用いた点が大いに異なる。その俳諧を一種芸術的に高めたのが芭蕉と言える。そういう訳であるから芭蕉の苦労も一入であったに違いない。前文の意味は「他者の短所を言ってはならない。己の長所を得意げに説いてはならない」と言う意味である。俳句の意味は「何か言えば唇が寒い、まるで秋の風に吹かれたように」という意味である。「物いへば唇寒し」で切れ字が入る。自戒するように己に言い聞かせる厳しさとしてi音が効果的に使われている。「物いへば唇寒し」とは『春秋左氏伝』の「唇亡歯寒」あるいは『史記』の「言也牙歯寒」に拠るものとも言われている。