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ミチフミ龍之介
〜松本隆初期詩集 ♯ 6
#松本隆 #詩集
☆『乱れ髪』
割れた 鏡のなか
たたみの青がふるえる
何をそんなに視てるんだい
髪を切りすぎたね
まるで男の子だよ
外は乱れ髪のような雨なのに
窓を埋める影から
きみの瞳がひかる
何をそんなににらむんだい
髪を切りすぎたね
まるで男の子だよ
外は乱れ髪のような雨なのに
ごらん
きみが切った髪が降る
ごらん
きみの髪が降る
まるで男の子だよ
外は乱れ髪のような雨なのに


ミチフミ龍之介
〜松本隆初期詩集 ♯ 4
☆ かくれんぼ
曇った空の浅い夕暮れ
雲を浮かべて烟草をふかす 風はすっかり
凪いでしまった 私は熱いお茶を飲んでる
「君が欲しい」なんて言ってみて
裡でそおっと滑り落す
吐息のような嘘が一片
私は熱いお茶を飲んでる
雪融けなんぞはなかったのです
歪にゆがんだ珈琲茶碗に 餘った
瞬間が悸いている
私は熱いお茶を飲んでいる
もう何も喋らないで そう黙ってくれればいいんだ
君の言葉が聞こえないから
雪景色は外なのです なかでふたりは隠れん坊
絵に描いたような 顔が笑う
私は熱いお茶を飲んでいる


ミチフミ龍之介
〜松本隆初期詩集 ♯ 3
☆それはぼくじゃないよ
茜色の朝焼け雲 ひとつ千切れて
ほころんだ空に 夢が紡がれる
ほっぺたの紅を 溶かしながら
きみは眠っている
とても気持よさそう
まぶしい光のなかから
のぞきこんでいるのは
それはぼくじゃないよ
それはただの風さ
ぼくはきみの胸の
なかに顔をうずめて
朝の物音に 耳をすましてる
うす紫の湯気が
ゆれるコーヒーポットに
つぶやき声が かすかにかすかに
きみの髪がゆっくりと 翻ったら
ぼくは林檎の においでいっぱいさ
まぶしい光のなかから
のぞきこんでいるのは
それはぼくじゃないよ
それはただの風さ
風あかりできみは
お化粧忙しそう
ぼくもついでに
欠伸をひとつ

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