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えなが

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『すべて真夜中の恋人たち』 川上未映子

読了。
部屋に残る光の残像が消えてしまうみたいに、記憶とか好きだった楽しさ、盲目さ、苦しさ、悲しさこのあたりも少しずつ拡散して薄れていくんだと思う。
それがあるから、人と関わって傷がついたり苦しくてもまた繋がりを求めたくなるんだなぁと思った。
冬子の最初と物語の終盤を見ると、やっぱり恋愛とか深い仲の友達とか、仕事みたいに自分ごとのようで本質的には自分ごとでも無い(会社勤めは特に)ことでは得られない、自分から生まれるリアルな感情が確かにある。
もしかしたら聞いたことがあったり、何かのフィクションからの引用かも知れないし、それがオリジナルかはどっちでも良いけど自分の気持ちの引き出しとか感性とかそういったものが広がっていくのが人と関わるってことなのかも知れない。
それに気持ちは少しずつ思い出せなくなっていくものだし、人間関係もどこかで登場人物には描かれないくらい薄くなる人もいるけれど、どこかにはその人と関わった痕跡みたいなものが残る。
音楽だったり、散歩の習慣かも知れないし、空が青い理由だったり、デートのために揃えた服がかかるクローゼットだったり、綺麗に揃えた髪の毛だったり、思い出せないどこかの記憶だったり、かつて言われたセリフなのかも知れない。千と千尋の神隠しの「一度あったものは忘れないものさ、思い出せないだけで」これってこういうことなのかなぁとか思ったり。
安全圏で1人過ごすのも悪いとも思わないけど、こういう変化が愛おしいと思えるから、深く人と関わってみたいんだよなぁと思えた。

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文体は繊細系。銀河鉄道の夜とかちょっと純文学的な独特の雰囲気。恋愛小説に分類はされるけど、主人公のあまりの陰キャ具合といい、年齢設定といいキラキラでは無いかな。ちょっと読む人は選びそう。
登場人物の良いところも悪いところも描写されてて、時にはどす黒いところや欲とかみっともない所みたいなものも見せながら関わっていく難しさとかもどかしさがリアル。特に女の人の描写がリアルで、あーいるなぁとか自尊心とか現状の自分の不安を何かを批判したり誤魔化したりする感じが何とも絶妙。キャラとして登場はしないものの、聖がバッサリ切った物申したい人物たちは正直作者が言いたいことも混じってそう笑
あと小物描写で香水の皮肉は効いてた。
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