大江健三郎論 怪物作家の「本当ノ事」井上隆史 著1人の人間や作家の1側面を取り上げるとき、大抵イメージ先行やレッテルを貼られてその人がどんな人か?理解が困難になる。この本は大江健三郎の初期作品から最後の作品まで井上隆史が精読と解釈をしてくれる大江健三郎入門としてすばらしい本だと思った。大江は多面的だ。「天皇よ!天皇よ!天皇!」(セブンティーンより)大江作品を読めば左翼とか右翼とかレッテルはすぐに吹っ飛ぶ。そしてそれは安定しない。常に読者に生き方の問題を突きつけてくる。そして彼が人間の醜さや醜悪さをどうしようもなさを無かった事にして、きれいごとにしなかった凄み。魂とは何か?を追求した誠実な作家だと僕は思う。語りたいことはたくさんある。川端康成のノーベル賞受賞の政治的理由。三島由紀夫と大江健三郎の関係。東大入学の理由であり、生涯の恩師であった渡辺一夫との関係。伊丹十三との関係。障害者である大江光さんとの関係。大江健三郎にとって二葉亭四迷が大きな存在であったこと。最後の最後まで小説家であった大江健三郎のかっこよさ。東京と故郷。最後に母に言われたとされる大江の言葉。作品に出てくる。「私は生き直すことができない。しかし、私らは生き直すことができる」誰かが大江健三郎作品を読む機会になれば幸いだ。#読書