岸辺🏝の100冊 # 9-2#読書の星 #東京 #武蔵野 #日本文学 ☆『武蔵野』 国木田独歩 其の2 武蔵野は全九項からなるが、ページ数にすると文庫本で僅か24頁に満たない短編である。冒頭に太平記の一文を引用しているが埼玉中西部で育ち、長く在した私の目を惹き付けて余りある。源平小手指原の戦で久米川宿云々の文言は冒頭から新田義貞の鎌倉攻めの主舞台となったかの地を偲ぶよすがに充分事足りる。私は19の時に狭山茶の主産地に近い実家を後に所沢で一人暮らしを始めた。その頃は丁度スタジオジブリのとなりのトトロが話題となっており、猫バスのシーンに出てくる七国山はまるで実在する八国山だったし、主人公のさつきとめいのお母さんが入院していたのはその八国山の裾野に点在する東京白十字病院などのサナトリウムであるのは明白だった。それによりお母さんは結核なんだなとすぐに判る。 そこからほど近い東村山は志村けんの地元で余りにも有名だ。八国山から数キロ離れた村山貯水池は西武の創始者堤康次郎が作った人工湖だが、そのすぐ脇にあるトトロの森は武蔵野を愛する宮崎駿が存亡の危機に瀕する武蔵野の雑木林を保全する為に余念が無かったと聞く。そう云えば独歩の武蔵野にこんな一文がある。第八項の冒頭部、…小金井堤上の散歩に引き続き、まず今の武蔵野の水流を説くことにした。… 小金井の流れのごとき、その一である…。 これは玉川上水のことであろう。その小金井に宮崎駿らがスタジオジブリの本拠地を置いたのも武蔵野という地域への愛昔の念があるからだと推察する。国木田独歩の『武蔵野』はこうして後続の文化人らに大きな影響を与えたのだと思う。 トトロはそうした古き良き武蔵野を守る守護神なのである。つづく…。