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マルチェロ

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大学卒業前の映画日記 第5回 
マノエル・ド・オリヴェイラ『クレーヴの奥方』

90代にさしかかった監督が、拡大する国内・国際的なあらゆる格差と分断を遠景に、18世紀フランス文学の古典を端正な映像で映画化した作品だが、その映される人物やものが、どうにも引っかかる。

まず、フランス文学の古典だから、筋はそう複雑ではない。ただ、そこで現れる男たちが、片や「ロックスター」(とはいっても、退廃的なナイトライフを送って心身ボロボロになるというよりは、昼間から仕事をさぼってピンボールかなんかしてそうな風貌で、髪が薄く、サングラスは似合わず、おまけに着ているものは、まるで清朝の下級官員である)、片や「医師」(というのはわかるのだが、如才なくも純情な雰囲気が出すぎていて、人間ばなれしている。あの迫力は、EAポーやボードレール、またはシャーロック・ホームズにでも現れるオランウータンである)という状態である。ロックスターのライブには、ホーンセクションなのか、手拍子三人衆なのか、横揺れ担当のエキストラなのかわからないやつがついてくる。主演のキアラ・マストロヤンニの優雅さもまた、絶妙にミスマッチで、修道女を演じたレオノール・シルヴィエラのほうが俗っぽく見えるくらいだ。いやいや修道女より清らかというのも人を食っているなぁ。

そして、映像ともなると、まともな歩行のスピードでカメラが動くシーンはたぶんひとつしかない。カメラは静止し、車は駐車シーンばかりが映され、彫刻まで動いているように見えるくらいの静止ぶりである。スリリングなシーンでは、シンセのフルートが不安を煽る。あのフルートはかなりシリアスに聞こえた。

こうなると、滑稽に滑稽を重ねて、シリアスな味を出すという作品である。こうも大真面目にくすぐりを入れられると、その場では笑っていられるが、鑑賞後の感覚は多層的になる。
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