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「悪趣味」②

Yさんは「よく気づいたね。」と、軽くTシャツを撫で、「これは僕のデザインなんだ。Tシャツプリントを安くしてくれるところがあってね、まあ、趣味なんだよね。」と、微笑みます。
「オリジナルなんですね!」驚いて、改めて今日のYさんのTシャツに目を落としました。若い女性が、静かに微笑んでいます。

(あれ、私…この女性、見たことある、気がする……。)なんとなく、嫌な感じがしました。
(誰だっけ、最近見たような気がする……。)思い出してはいけないような、そんな気がしました。でも、目が離せません。

「これ、誰か、わかる?」Yさんが近寄り、真顔で私の顔を覗き込みます。正確には、口元は笑っていますが、目が全く笑っていません。冷たく、射るような目。一気に鳥肌が立ちました。

「あ……わかりません。」なんとか声を絞り出し、その場を離れた私には、もう、わかっていました。
(なんで……なんのために?)混乱する私の耳には、蝉の鳴き声。
(まさか、今までのやつ、全部?)
そう、そのTシャツで微笑んでいたのは、ここ連日テレビで目にしていた、殺人事件の被害者でした。

他の部員は、気付いていたのでしょうか。
その日以来、私はYさんを見ないようにして過ごし、1度も話すことはありませんでした。もちろんYさんのことを他の部員と話すこともありません。心底気味が悪かったのです。
ただ、素晴らしいティンパニの音色と、あの夏の日の事が、忘れられずにいます。

これは私の実話です。

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「あの夏」①

高校1年生の夏のことでした。
クラスメイトのTさんが亡くなりました。
夏休みに入ったばかりのこと。学級代表からの電話で、その川の事故を知りました。

「クラスの数人で遊びに行ったんだって。Tちゃんだけ、いなくなって、まだ見つからないって……きっとすぐ見つかるよね?大丈夫だよね?」

これは私が長年、ずっと悔やみ続けている出来事です。
当時の私は、とても薄情な人間でした。家の都合で引っ越しが続き、新しい人間関係を作るのも億劫で、その上相貌失認症でしたから……思春期、ということもあったのでしょう。
私は、人の顔と名前を結びつける努力を一切しなくなっていました。

その場しのぎの会話で盛り上がり、特定の仲良しが少しいればそれで良くて、あとは有象無象。誰に対してもいい顔をして、敵さえ作らなければ良いと思って生きていました。あの夏までは。

学級代表から電話をもらった次の日の朝、担任から電話がかかってきました。

「Tさん、見つかったって……。」

その声で、Tさんは亡くなったのだなと、悟りました。
「それで、今から学校に来て欲しくて……学級副代表のあなたに、Tさんの弔辞を書いて、お葬式で、読んで欲しいの。」声を詰まらせながら、担任は言いました。
「それは……学級代表じゃ、ないんですか?」と聞くと、「実はね、学級代表のYさん、ちょうどTさんのグループと、うまくいっていなかったそうなの。Tさんとは喧嘩したままだって、泣いてね……とても弔辞が書けるような状態じゃなくて。」苦しそうに言う担任にそれ以上なにも言えず、私は了承して家を出ました。

(私なんて……Tさんの顔さえ浮かばないのに?)

学校に着いたら、やっぱり断ろう。私にはその資格がない。そう、強く思いました。弔辞は、仲のいい人が読むべきに決まっている。
学校に着いて、担任の顔を見て、言葉が詰まりました。憔悴し切ったその雰囲気に、何も言えなくなってしまったのです。

「ごめんなさいね、急に……。これ、読んでくれる?」

手渡されたのは、一通の手紙でした。
私のクラスでは、クラスメイトの誕生日に全員で手紙を書いて渡すという決まりがありました。夏休みに入ってから誕生日を迎える私には、夏休み前にみんなが書いた手紙を担任が預かっていたのです。

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「カチカチ」①

これは私が大学生の時のお話です。
広大な敷地を持つ大学には、森がありました。
今思うと農学部もありましたので、あの森も、何かの研究用だったのかもしれません。
森自体にはなんの思い入れもありませんでしたが、問題は森に集まるカラスです。
大量のカラスが森に巣食い、大学の内外問わず荒すようになり、大量の糞が落ちました。
落ちてきた糞で汚れることも多々あり、学生の間では「カラステロ」と呼ばれ、恐れられていました。

ある日、私はサークル棟へ向かう坂道を下り、オーケストラ部の練習場へと歩いていました。
活動する場所として割り振られたその場所は、森の脇に建てられたプレハブで、夏は暑く冬は寒いと悪評高い部室でした。
あの日は残暑が残るものの、秋風の吹く過ごしやすい日だったと思います。
森の横の坂道ということで、どこを見ても視界にはカラスが入りました。

(またカラスが増えてる……そろそろ大学も対策すべきじゃないかな、食料にして売り出すとか。)

と、我ながら無茶なことを考えながら部室に着きました。

個人練習を終えて部室を出ると、だいぶ日が陰り、カラスの鳴き声があちこちから聞こえます。茜色に染まる、夕暮れでした。
これからアルバイトに向かう足取りは重く、更に上り坂でしたので、ゆっくりと歩みを進めます。そのうち、妙な音が聞こえてきました。


カチカチ

なんだか聞き覚えのあるような音です。

(なんの音だろう。)

②に続く

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「インターホン」①

私が院内保育所で働いていた時のお話。
院内保育所とは、主に病院スタッフのお子さまを預かる小規模な保育園です。夜勤をする看護スタッフのために、私も夜勤をしていました。

夜勤は、大体私と園長の2人で数人のお子さまを預かるという体制でした。例え預かるお子さまが1人であったとしても、開園するには必ず2人の職員がいなければなりません。

迎え盆の、8月13日のことでした。
珍しくお盆に夜勤が入りました。保育をするお子さまは1人。あいちゃんという、2歳の女の子です。
園長は事務室で事務仕事をしていたので、私はお子さまにお夕飯を食べさせ、お風呂に入れ、寝かしつけをして…いつも通り夜が更けていきました。
(お盆は、空気がざわざわするな……。)

学生の時、お盆は苦手でした。
お盆に飲食店のアルバイトに入ると、頻繁に人数を間違えてしまうのです。どんなに気をつけても、何故か人数以上に水を置いてしまうミスをしてしまいます。指摘されてお客様を見ると、確かに水が多い…高級レストランでの給仕でしたので、このようなミスはとんでもないことでした。
それ以来、お盆は実家に帰るふりをして、別のアルバイトを入れました。
ただでさえ相貌失認症である私には、対人関係のミスが、酷くおそろしいものに感じたのです。


あいちゃんの深い寝息を確認し、時計を見ると21時をさしていました。
ブレスチェックをしながら制作活動の材料を揃えたり、壁面を作ったり、書類を作成したりしていると、あっという間に時間は過ぎていきます。気付くと日付けも変わりそうです。
夜勤では、交代で仮眠の時間を取ります。その日、24時から2時までは、園長が仮眠を取るはずでした。

「ごめん!どうしても家に行かなきゃならなくて…2時には必ず戻るから、それまでお願い。あいちゃんが起きると悪いから、インターホンは鳴らさずにラインするね。私が戻ったら玄関の鍵開けてくれる?」
突然、そう言って、園長が慌てて去っていってしまいました。

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「悪趣味」①

私が大学生の時のお話です。
オーケストラ部に所属していた私は、ティンパニ担当のYさんの音が大好きでした。今までに聴いたティンパニの中で、1番良い音がしていたと、今振り返ってみても思います。特に剣の舞や、ベルリオーズの幻想交響曲での、ティンパニの深く素晴らしい音色は忘れられません。

そんなYさんですが、見るたびに柄の異なるTシャツを着ていました。Yさんは身長が高く、Tシャツの柄が、ちょうど私の目の高さにくるのです。毎日、被ることが1度も無かったので、「衣装持ちだな…。」と、日々感心して見ていました。

いつも異なる柄の、〈誰か〉の顔をベースにデザインされた、Tシャツ。その〈誰か〉は、子どもだったり、老婆だったりと年齢層も幅広く、おそらくは1度も同じ顔が無かったように思います。
私は相貌失認症ですので、もちろん顔そのものはわかりません。ですが、だからこそ細かいパーツはよく見てしまいます。
目は見過ぎると相手に不快感を与えてしまうので、なんとなく口元を見て相手の感情を読む癖が当時ありました。
特に静止している写真の口元は、印象に残ります。YさんのTシャツにいる〈誰か〉は、いつも笑っていました。

「YさんのTシャツ、毎日柄が違って面白いですよね。」
ある時ついに、私はYさんに話しかけました。
7月のとても暑い日、バイト帰りに個人練習をしようと立ち寄った部室には、たまたま私と、Yさんだけがいました。

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「不審者」②

そんなホルン漬けの日々を送っていた、ある日の土曜日。
いつものように朝練があり、その後は金管楽器のみ個人練習でした。パートが同じでも間隔を空けて、各々楽譜に向かいます。私も家庭科室で1人、改めて自分の音を確認していました。

(そういえば、最近学校に不審者が出るんだっけ……。)

何故か唐突に、脳裏に担任の言葉が浮かびました。

「皆さん噂で聞いたことがあるかもしれませんが、一ヶ月ほど前から、学校内に写真を貼り付けて立ち去る不審者が出ています。十分に気をつけてください。」


写真。

どんな写真だったんだろう。



そう思った瞬間。


ガタッ!!!

と、掃除用具を入れるロッカーが鳴りました。
驚いて思わずそっちを見た時です。

リリリリ……リリリリ……

今度は、家庭科室にあるロッカーとは正反対に位置する内線電話が鳴りました。
立て続けに鳴った2つの音に、心臓がドキドキしながらも、受話器に手をかけます。
今までも、たまに顧問が内線電話で部員を招集することがあったので、それかなと思いました。

「はい、もしもし。」

私が言うと、聞こえてきたのは副顧問の声でした。
副顧問はホルン吹きで、その日も向かいの棟でホルンを吹いていました。
電話をしながら窓から向かいの棟に視線をやると、副顧問がこちらを見ながら電話をかけている姿が見えます。
目が、合いました。

「ホルンだけ持って、すぐにこちらに来てください。さっきの朝練の振り返りをしましょう。楽譜はこちらにありますから、そのまますぐに向かってください。」

私は了承して受話器を置き、すぐに向かいの棟へ歩き出します。
(朝練で、なんかまずいことしたかなぁ。)
副顧問はジャムおじさんみたいに温和な顔をしていながら厳しい指導をする人だったので、戦々恐々としながら歩きました。

向かいの棟に着いた時。
副顧問が、慌てた様子で私の手を引き、そのまま職員室に向かって走り出しました。
「走って!」
お互いにホルンを脇に抱えたまま、わけの分からぬまま副顧問の言う通りにします。
「何かあったんですか?」
私が言うと、副顧問は言いました。




「あなたの後ろに、不審者がいたの。」


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「会いに来た」①

私が保育教諭の仕事を始めて、最初に勤めた園でのお話。
ハッキリ言葉を発する前のお子さまを預かるクラスでは、〈大人には見えない何か〉の存在が話題になることが少なくありません。
例えば、遊んでいるお子さまたちが突然揃って何もない天井を見て笑い出したりすることがあります。そういう時には、「きっとあそこに誰かいるのね。」なんて言いながら職員同士で笑い合うのが常でした。
また、頻繁に何もない方向を指さしているお子さまを見て、「この子は何か、私達とは違うものが見えてるよね。」というような話になることも多々ありました。

小さなお子さまを預かるクラスでは、そういった不思議なことが自然と受け入れられていることが多い気がします。わりと、今まで勤めたどの職場でも同じような会話をした記憶があります。
ある園では、「◯◯くん、何かが見えるみたいでパニックを起こすから、あの道はお散歩コースから外しましょう。」というような配慮までありました。
それこそ誰も「何言ってるの?」なんて口にせず、そういうものとして受け入れられていたことを覚えています。

ある日のお昼寝の時間のことです。
いつも通り1人ずつ寝かしつけ、全員が寝たところでブレスチェックをしながら連絡帳を書きます。たまに泣いて起きたり、寝返りでうつ伏せになるお子さまを抱っこで落ち着かせて再び寝かせたりと、いつも通りの昼下がりでした。

突然、Rちゃんがガバっと起き上がり、止める間もなくテラスのある窓際へ駆け寄っていきました。慌てて後を追うと、外に向かって笑顔で大きく手を振り出します。私もRちゃんが見ている方向を目で追ったのですが、特に何も見えません。
「Rちゃん、どうしたの?お布団もどろう。」と声をかけても全く反応せず、そのうちキャッキャと声を出し始めます。他の子を起こしては困ると思ってRちゃんを抱き上げると、Rちゃんの目はしっかり閉じていました。
(嘘でしょ、Rちゃん、寝ぼけてたの?)
驚きながらお布団に下ろすと、数分後にまたガバっと起き上がり、同様の動きをするのです。
これには参ってしまい、同僚を呼び、Rちゃんを別室で眠らせることにしました。
すると、すやすや眠りについたのでほっとしてまた業務に戻りました。

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「不審者」①

私が中学2年生の頃のお話です。
5人兄弟だった私は、かなりぼんやり生きていた子どもでした。
自分が相貌失認症ということにもまだ気付かず、なんとなく(私はみんなより物覚えが悪いな……。)と思っていました。

引っ越しが多かったこともあり、場所が変わる度にその土地の新しい人について覚えることに一苦労していたあの頃。
(きっと自分の脳は、顔を覚えるところがもういっぱいで、新しい顔は容量オーバーで入らないんだな。)と考えていたことを覚えています。
とはいえ、日常生活は問題なく送れていましたし、人の顔を認識できないのは些細なことでした。


「ねえ、みおちゃんってお兄ちゃんいる?」

それが、些細なことでは無くなった時期があります。それは中学2年生の秋のことです。
突然そんな風に、あんまり親しくないクラスメイトや他クラスの人に聞かれることが多くなりました。

「いるよ。」と答えると、「みおちゃんのお兄ちゃん、朝早く自転車に乗ってない?」とか、「夜遅くに☓☓公園で自転車乗ってた?」とか、兄のことをやたらと聞かれるので、地味にストレスでした。
「朝も夜も家にいるから、人違いだと思うよ。」と返していましたが……今思うとこれ、明らかにおかしいですよね。
どうして他クラスの見知らぬ人まで、その自転車に乗る人物を私の兄だと思ったのか……そこを突っ込むこともせず疑問にも感じていなかった私は、やはり相当ぼんやり生きていたのだと思います。ただただ、突然見知らぬ人から話しかけられるストレスと戦うだけだったのです。

さて、話は変わりますが当時私は吹奏楽部に所属していました。

小学生の頃、たまたまマーチングバンドに強い学校に1年間いたことがあったので、そこでアルトホルンを吹いた経験が活かされ、次の学校ではホルン吹きになり重宝されていました。

吹奏楽の強豪校だったので、朝練から始まり土日は1日練習で潰れ……。令和の時代には考えられない夜練もよくありました。大変でしたがこの時期があったおかげで、今もなんとなくホルンを続けています。

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「夜逃げ」③

お店が休みの大晦日の朝から夕方まで、まず物をとにかく段ボールに詰めて、それから空いたところを掃除機や雑巾がけで隅々まで綺麗にしました。
最後に物を元に戻そうとしたところで、「あとは、ワタシやるヨ。」と止められ、「ありがとね、つぎは、3日からお願いネ。」そう、言われました。

1月3日。
仕事始めに店に訪れた私は、愕然としていました。店内は、見事にもぬけの殻です。見間違えたかと思って、何度も確認しますが、看板も何もありません。慌てて店長に電話するも、繋がりません。更にUにもかけたのですが、そちらも「お掛けになった電話番号は……。」のアナウンスが流れるだけでした。

狐につままれたような気分で冬休みが終わり、私は思わずS教授を捕まえて事の次第を打ち明けました。S教授は全てを聞き終えると「それは、夜逃げでしょう。」とのんびりとした口調で言います。
「夜逃げ!?」と衝撃を受けていると、更に続けます。
「そういえば、最終日に食べに行った時、店長さんから言われたんですよ。『今年ハありがとう。いつも食べルお礼に、あの本、あげよカ?』って。」ドキッとしました。脳裏にあの禍々しい本が浮かびます。
「もらっちゃったんですか!?」
思わず聞くと、「いや、僕の専攻は西洋文化だから、東洋の本はいらないなぁって断りましたよ。」と、また穏やかに返されます。
「残念ですよ、あのレタスチャーハンが食べられなくなるなんて。」と言うので、「味の素と、レタスと、干し海老があれば作れますよ。」と教えてあげました。
そう、あの店主の料理は、ほとんどが味の素によって作られていたのです。
衝撃を受けているS教授を横目に、(それにしても、夜逃げとは……あぁ、先月の給料が。)と落胆するばかりでした。
その頃、考古学研究室ではUが失踪した話で持ち切りになっていました。店主が消えたあれ以来、Uもまた、いなくなってしまったのです。
なんとなくUは、もしかしたらあの本をもらってしまったのではないかと思いましたが、真相はわかりません。
店長へ。
もしもこの話を見ることがあったなら、あの時のお給料、いつでもお待ちしています。

これは私の実話です。


※私の実話シリーズまとめnote
https://note.com/hyaku_monogatari


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アキオくんから聞いた話。

アキオくんと私は、大学で知り合いました。
田舎者と思われるのが嫌で、大学デビューを果たしたアキオくんは、とにかくチャラくて声が大きくて馴れ馴れしくて……私とは縁のないタイプの男性だと思っていました。
ところが、不思議なことに、このアキオくんは大人になった今も交流があります。

そんなアキオくんが、この間会ったときに「悪いけどマスク外してくれない?俺さ〜、マスクをしている女性、今めちゃくちゃ怖いんだよね。」と、言い出しました。
詳しく話を聞くと、彼は昔と変わらぬ大きな声で話し出します。

新型コロナウイルスも5類になり、段々職場でもマスクを外す人が多くなる中で、頑なにマスクを外さない女性がいたそうです。
名前はハルナさん。
大人っぽい雰囲気で、きっとマスクを外したらめちゃくちゃ可愛いんだろうなぁと、アキオくんは密かに狙っていたのだそうでした。
ちなみにアキオくんは、大学時代から女性関係が派手で、得意の話術を駆使して様々な女の子をナンパしていました。大人になってもそれは変わらなかったようです。
ハルナさんはおっとりしながらも、仕事はテキパキこなすキャリアウーマンで、隙がなさそうに見えましたが、ある日会社の飲み会で口説き落としが成功してLINEをやり取りする仲になりました。
「こうなればもう、こっちのものっていうか……まあ、最終的に、そんな流れになってさぁ。」
そんな流れ、というのはまあ、つまり男女の仲ってことなんですけど。
「実は、デート中も飲食しないし、マスクを一切外してくれなくて。それであの日、初めてみたんだよね、俺。ハルナさんのマスクの下。」
アキオくんが、ハルナさんのマスクを外すとそのマスクの下の顔には。


◯す◯す◯す◯す◯す◯す◯す◯す◯す◯す


✕ね✕ね✕ね✕ね✕ね✕ね✕ね✕ね✕ね✕ね


びっしり、赤いペンで隙間のないくらいに、書いてあったんだって。
絶句するアキオくんに、ハルナさんはにっこりして。
「これ、書いといたら、大嫌いな上司の前でもニコニコしていられるよ?オススメ。」って、言ったんだそう。
それ以来アキオくんは、女性のマスク姿を見ると、あの文字が浮かんじゃって、もう、怖くて仕方ないんですって。

これは、アキオくんの実話です

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「山姥」③

リィィィン

走ろうとした私は、絶望していました。身体が全く動かないのです。
そんな私を、弟が不思議そうに見ています。
(動ける、の?ああ…そうだ、この子は特別だった。)
弟は、お寺が養子に欲しがるほど、特別な子ども。

リィィィン

次の瞬間、小屋の、小窓がスーッと開かれ、青白い腕が出てきました。顔を背けたくても、身体が全く動きません。

何を思ったのか、その時。
弟が、私の手を離しました。
(馬鹿…!馬鹿!!行くな!!!)
突然、腹の底から怒りが湧いてきました。
理由はわかりません。
自分の内のどこから湧くのか、深く激しい怒りでした。それがあっという間に全身を支配した時、ピクッと、右脚が動きました。(脚が動く…!)と、悟った私は。

小屋に向かって行こうとする弟を、奇声を上げて思い切り蹴り倒していました。

突然のことに、弟は吹っ飛び、空気を震わせて激しく泣きます。
その瞬間、鈴の音のような音も消え、異質な空間が、何もかも元に戻ったようでした。
今だ!!と、弟を引き摺るようにしてその場を離れます。無我夢中でしたので、そこからどこをどう逃げたのか、覚えていません。
気がつくと、泣き喚く弟の声を聞いて、慌てて探しにきた姉と兄がいました。弟が、普通の子どものように泣く姿を見たのは、それが初めてのことでした。

その後帰宅した私は、弟を泣かせたと姉と兄から責められ、しょんぼりしたことを覚えています。
当の弟は、すっかり泣き止んでまたいつものぼんやりした、あの浮世離れした表情に戻っていました。

あの時、あのまま弟が小屋に行ってしまったら、どうなっていたのでしょうか。

これは私の実話です。

※雪虫は、北海道民にしかわからないかもしれませんね。秋口から冬にかけて、粉雪のように舞う、綺麗な虫です。雪かな?と手に取ると虫なので、びっくりすることもありました。

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「紙魚」①

これは大学3回生の秋口の話です。

夏休みが明けて大学に行く私は、いつものことながらぼんやりしていました。
貧乏学生の夏休みは、まるで社会人になったように働いて終わります。
塾講師のアルバイトで夏期講習を受け持ち、隙間時間で家庭教師……ちなみに春休みはこれが引っ越しのアルバイトに切り替わります。
慌ただしい日々の中で、大学という存在が薄れていき、いざ大学が始まってもイマイチ気持ちがついていかないのでした。
どことなく現実味の無いままゼミ室に向かいます。
(早目に行ってボケた頭を切り替えるか。)と、東浩紀の小難しい本を片手に扉を開けました。
一番乗りを確信して扉を開けたのに、先客がいます。
アキオくんです。
思わず久しぶり!と言いそうになって、止めました。そもそも、私から話しかけるような関係ではないし……アキオくんは、なんだかこちらに気付いていないようだし。
目の前のアキオくんは、丁度扉を背にして座っています。何やら本を読んでいるみたいで、やはりこちらに気付いていない様子です。
ブツブツ何かを呟きながら、本に夢中なようで、文字を指でなぞったりしています。
(驚かせてみようかな。)
気紛れにそう思い、ゆっくり背後に近付いていき、いよいよあと1.5メートルという時点になって、私はギョッとします。
アキオくんの背中に、何か大きくて半透明な虫が付いているのです。大きさは5センチほどでしょうか。
(アルビノの、虫?……なんの虫だろう。)
もう少し近付いてよく見ると、どうやらフナムシのような形状の虫で、素早そうです。
長い触覚に、ダンゴムシのような体。
北海道の大自然の中で生まれた私は、フナムシのような形状の虫が、とても素早いことを知っています。
ましてやこんなに大きい虫です。ちょっと手で潰すようにして脅かせば、サササといなくなるだろうと思いました。

軽い気持ちで。



バンッ!!


虫を、叩き潰しました。

「え。」
と、私が呟くと同時に、「わぁあああ!何!?」とアキオくんが飛び上がります。
「いや、虫、潰しちゃって……。」
慌てて自分の手を見ました。
その手には、何も居ません。
「あれ、なんで……いたの!背中に虫が!追い払おうとしたら潰しちゃって。」

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「2階に行ってはいけない家」①

私が小学生中学年くらいの時に、数カ月だけ住んだ家の話をします。

正確にいつ、どのくらい住んだかは思い出せませんが、二階建ての一軒家で酷く古い家でした。
転勤の多い父に付き合っての引っ越しは、毎度のことながら大変です。
経済的な事情からなのか、住む家はどれもひと癖ありました。その中でも一際奇妙だったのが、今回お話する家です。
その家は条件付きの借家で、隣には大家さんが住んでいました。一見した限りでは、ただの古い家でしたが、今思うと独特な雰囲気があったと思います。まるで誰かが既に住んでいるような……実際、いくつかの大型家具や壁に飾られた絵画などはそのままになっていました。
この家に引っ越す時に父が「ここに住むのは短い期間になると思うから、荷解きは最小限でいい。」と言ったので、段ボールから必要最小限の服や学用品を取り出して新生活はスタートしました。

「この家は、2階を使ってはいけないと言われているから階段を上らないようにね。」と、母に言われ、兄が「どうして駄目なの?」と聞くと、「ここはね、元々大家さんのご両親が住んでいた家で、10年くらい前に亡くなったそうなんだけれど、2階には形見が置いてあるからそのままにして欲しいということなの。」と説明されました。
ぽかんとした私たち兄弟の顔を見て、母は説明を付け足します。
「つまり、昔死んだ人の大事なものを2階に残してあって、それには触って欲しくないらしいの。だから、2階には上がっちゃ駄目だからね。」
わかりやすく言い直されて、ようやく合点がいき、私たちは頷いたのでした。

この家に住んだ時期、父と母は珍しく険悪な雰囲気でした。原因がわからず当時はただ戸惑ったものですが、後に母から聞いた話によると、その時期に遠い親戚から、弟を寺の跡取りにしたいから養子に出してくれないかという話が再び出ていたのだそうです。一度目は弟がもっと幼い時で、母と相手が揉めていたのを覚えています。
二度目の打診。母はすぐにお断りしたのですが、父が「それはいい。あれ(弟)は養子に出そう。」と言い、そこからしばらく大喧嘩していたとのことでした。

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「物理的にあり得ない」③

練習場の改修工事は1年半くらいを予定していたので、コバさんの転勤さえなければ貸倉庫を借りるよりもずっと安く済みます。
「今のところ転勤は1年以内には確実に無いです。1年後以降はちょっとわからない感じですが……どうですか?」
コバさんの問いかけに、渡りに船とばかりにみんなが御礼を言います。
「えっと、マンションの管理会社に許可は必要になりませんか?楽団員は部外者なわけですよね?」
私が確認すると、コバさんは「あ、実は確認済みでして……。とにかく集団で邪魔にならなければ大丈夫だそうです。元々一階には貸店舗がありまして、今はコンビニが入っていて誰でも通り抜けられる作りなんですよ。」と、淀み無く説明しました。それを聞いたら断る理由もなく、私も賛成せざるを得ませんでした。
(個人スペースは、本来きっと車のタイヤとか除雪道具とか入れる場所なんだろうなぁ……。)
コバさんに頼りきりでなんだか申し訳なく思ったからなのか、みんなが賛同する中で私はなんとなく引っ掛かりを感じていました。
それを悟ったのかわかりませんが、後からコバさんが「すみません。悪いようにはしないので、僕に任せてください。」と、わざわざ言いに来てくれたのが印象的でした。

そういうわけで、団所有の楽器は、コバさんのマンションの個人スペースに詰められました。
詰める時も、バラバラに1人ずつ入り、最初はコバさんの付き添いで案内されて場所を確認しながらの作業でした。
私も合鍵を持つメンバーに選ばれていたので、シンバルなど持って中に入ります。個人スペースの扉を開けると、中は綺麗に棚が出来ていて、なるほど効率よく収納できるようになっていました。「小物を奥の棚に詰めて、大きめの鍵盤楽器は手前に置く予定で……。」と、コバさんが入れる場所を説明します。
言われるままにシンバルを仕舞いながら、なんとなく違和感を覚えて周りを眺めますが、特に変わったところはありません。
(なんだろう……?)
具体的に説明できないけど、何かが気持ち悪い。コバさんが、「あ〜、ごめん!やっぱり女性には楽器が重いよね。違う人に鍵係やってもらおうか。」と私の様子を見て言います。

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「物理的にあり得ない」②

「最近疲れがなかなか取れなくて、自転車で転んで怪我しちゃってさ〜。」
と、腕に包帯を巻いて練習に現れたのは、つい2週間前で。
「しばらく乗り物には気をつけないと駄目よ。」
と、同じホルンパートのイサカさんが言っていたのをよく覚えています。
なのに、仕事を残業して深夜、バイクで帰る時に事故であっさりこの世を去りました。
ついこの間、私の隣で吹いていたのに。
定期演奏会では、イサカさんと私とワタルさん、並んで吹いたじゃないか。
にわかには信じられず、葬儀に参列しても実感がわかず、でも棺に眠る姿を見た時に(ああ、本当なんだ。)と腑に落ちて。
周りの目があるからと、一瞬ぼやけた視界をぐっと立て直して席に戻りました。
私が席に着いた時。
斎場に男性の泣き声が響き渡りました。
思わず目をやると、コバさんが人目も憚らず棺にすがりついて、「ワタルさん!ワタルさん!」と、涙を流していました。
その姿を見て、(私、この人の人間性が、とても好きだ。とても、羨ましい。)と痛感して俯いたのでした。

ある時、いつも使っている練習場が改修工事のため長期間使えないことになりました。
活動の拠点を失うのはとても痛手です。
というのも、個人持ちの楽器は個人で持ち運ぶのでどこにでも行けますが、パーカッション(打楽器)や団所有の楽器は置き場が無くなってしまい、路頭に迷うことになります。
どこかの貸倉庫を有料で借りるのも、団費でまかなえないくらいの額になってしまうので、さてどうしようかと会議が開かれました。
「転勤するまでの間なら、うちのマンションの個人スペースを使っても良いですよ。ただ、いくつか条件があります。」
そう言って、コバさんが提示した条件は以下の通りでした。

①個人スペースはマンションの一階共用ラウンジにあるが、住人以外が集団で入るのはよくないので、物を入れたり取りに来るのは1人ずつにすること。
②収納を効率よくしたいので、個人スペースにぴったりの棚を作りたい。
③合鍵を作って数人に渡すので、連絡を取り合ってうまく時間が被らないように利用して欲しい。時間帯問わず、いつ出入りしても構わない。
④もしも転勤が決まったら2週間で出なければいけないので、その間に楽器の移動先を探してもらいたい。

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「桜の樹の下には」②

夏になるとカラスに作物の実を突付かれるため、夜勤中にカラス避けを作らされることもありました。
マホ園長の設計図通りに作るのですが、今思い返すと本当にコレがカラス避けになるのかと疑問に思うような形状でした。ですが毎年、それを作って野菜の周りに設置すると、カラスは遠巻きに野菜を眺めるだけで決して近づいてきませんでした。
毎年立派に実る野菜たちを目の当りにしていて、当時は何も思わなかったのですが、今思うとマホ園長の技術は相当なものです。
苺でも、西瓜でも、南瓜でも、マホ園長の手にかかると失敗することなく大きく育つのでした。本当に、不思議なほどに。

夏には園の子どもたちに見せるために、実家の畑にいたカブトムシを捕まえてくるのですが、これがまた立派なカブトムシでした。
私も趣味でカブトムシを幼虫から育てますが、どんなに良い土で育てても、あれほど大きなカブトムシには出会えません。しかも、マホ園長が連れてくるカブトムシは軒並み長寿なのです。夏が終わっても生きが良く、百均で買ったようなゼリーを餌にしているのにと、これも不思議でした。
(きっとマホ園長は、何かの加護を受けてるんだなぁ。)と思うほどでした。

そんな動植物に愛されるマホ園長でしたが、園庭の桜の木のことを何故か嫌っていました。
ある時、「もう少し畑を広げたいけど、スペースがないんだよね。」とマホ園長がぼやいていたので、私が「園庭の桜の木の周りは結構余裕があるから、プランター栽培とかいけそうですよね。」と言うと、「あの桜の木は駄目。あれの周りでは何も育たないよ……あの木、引っこ抜きたいくらいなんだよね。」と小さな声で憎々しげに呟くのです。マホ園長の意外な言葉に驚いて聞き間違いかと思い、「え?」と聞き返します。すると今度ははっきり、「桜の木、邪魔だから切ってもらおうと思って業者に連絡したこともあったんだけどさ、『桜の木を切ると呪われるから。』と断られちゃったんだよね。」と言いました。

桜の木は、邪魔と言われるほどに園庭を逼迫しているわけではありません。むしろ、ポツンと離れた位置にあります。マホ園長がそれほど嫌う理由がわからずに戸惑うばかりでした。

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「桜の樹の下には」①

マホ園長の話をします。

マホ園長は、とある小さな院内保育所の園長で、40代前半くらいの女性です。
院内保育所とは、基本的には病院スタッフのお子さまを預かる施設で、0歳〜2歳までのお子さまを一緒に保育します。
病院スタッフと同様に夜勤があったりと、お子さまの数は少人数ながら、独特な家庭的雰囲気のある職場でした。

私がマホ園長と働いていたのは、8年前までです。
マホ園長はとにかく判断力と行動力のある方で、憧れの存在でした。自分が悪いと思ったことをすぐに反省して正すことができる強さを持つ人で、私はそんなマホ園長を尊敬していました。
このままこの院内保育所にずっと居ても良いかなと思っていたものの、8年前の私はスキルアップを目指して転職し、今現在に至ります。

「みお先生は、10年後うちに帰ってくることになるから、経験を積んできたらいいよ。」

勤務最終日、マホ園長にそんなことを言われてびっくりしたことを昨日のことのように思い出せます。
当時のパートの先生が、「マホ園長の予言は当たるから。10年後に戻るときは、マホ園長の後継者になるのかなぁ。待っていますね。」と笑顔で言ったことも、不思議なくらい鮮明に覚えています。
10年後まで、あと2年……毎年桜を見ると、マホ園長と、あの院内保育所を思い出すのです。

院内保育所の園庭に、一本だけあった桜の木。

海が近くて潮風が吹く、植物にとって決して環境の良くない場所に、その木はありました。
そもそもこの院内保育所は、時代の要請に合わせて病院の敷地内に後から作られたものです。
突貫工事だったのか、園庭にある砂場の砂はもちろん、園の周りの土壌はみんな、明らかに砂浜から持ってきたような土質です。
(よくこんな場所に立っていて枯れないな……。)
と、桜の木を見る度に思っていました。
環境のせいか、それほど大きくない木でしたが、それでも春になると、とても美しい桜を咲かせました。

そんな園庭の横には、マホ園長の管理する畑がありました。マホ園長は実家が農家だそうで、農業のスキルが高く、こんなに痩せた土地でも立派な野菜を育てるのです。
「子どもたちの食育にもなるし、私育てるの得意だから。」と言いながら、丁寧に畑作りをしていました。

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「失せ物出る」①

これは私が長野県に住んでいた頃のお話です。

当時小学4年生だった私は、比較的毎日平和に過ごしていました。小さな不思議に出会うことはありましたが、どれも些細なもので、語るほどではありません。
例えば、兄とスゴロク遊んでいる時、手にしたサイコロが、振った途端に消えたことがありました。兄も消えるところを見ていたものですから、一緒になって大騒ぎしたことを覚えています。
他にも、見た目が明らかに浅い水たまりに、お友だちが長靴でバシャッと入った時、膝くらいまで片足が一気に沈んだことがありました。転んで泣く友人に慌てて手を貸して引き上げると、長靴が無くなっています。水たまりに手を入れてみるも、やはり浅い水たまりで、長靴の入る空間はありませんでした。
こんなふうに、物が消える怪異は振り返ってみると意外と多いもので……。
ちなみに、消えた後に出てきたのかどうかですが、残念ながら出てくるほうが稀(まれ)でした。

今回は、そんな「稀」が起きた出来事について語ります。

4年生の終わりに、小学校で流行したものがありました。血液型占いや、おまじない、そしてコックリさんです。
私はそういったものに興味がなく、縁のないものと思っていたのですが、ある時奇妙な噂を耳にしました。

「隣のクラスのリナちゃんは、魔女の生まれ変わり。リナちゃんの教えるおまじないはよく効く。リナちゃんとコックリさんをやると、必ずコックリさんが出てきてくれる。」

リナちゃん。
リナちゃんといえば、図書室でよく見かける女の子です。
当時私が大好きだった本の中に、『花ものがたり』という可愛らしい挿絵付きの本がありました。内容も素晴らしく、世界中の花についての伝説や神話が集められていて、とても面白いのです。休み時間、図書室に行くと必ずページを開いていたのですが、ある時いつものように見に行くと、先に手にしている子がいました。
(借りられちゃうかな……私以外に手に取る子、初めて見た。)
思わずじっとその子を見ると、視線に気づいたようでこちらを見返してきます。
「懐かしい。あなた✕✕でしょう?」
驚いたようにこちらを見ながらそう言った子が、リナちゃんでした。

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