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くろ

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#GRAVITY読書部 #仮免GRAVITY

『Boy Swallows Universe』
©️Trent Dalton 池田真紀子 訳

1980年代のオーストラリア、ブリスベン郊外に住むイーライ少年。
世界の理不尽に振り回されながらも逞しく成長する様を描く。

本当の父親の姿は朧気で、母親は薬に溺れ、その薬の売人が父親代わり。
兄は幼少期に口をきかないようになり、唯一の友人は元脱獄犯。

トラブルの少ない人生を送れるかは、本人の意思以外に周囲の環境にも大きく左右される。
彼が大きな問題に巻き込まれ、大切な人たちを失っていくことは半ば必然だったかもしれない。

生まれ落ちる環境という選べないディスアドバンテージを抱えながらも、行動し、失敗し、自分にどうにかできること、そうでないことの分別をつけること。
どうにかできることを何とかしようと学ぶ姿勢の尊さ、重要さを教えてくれる。

「人生ってのはな、基本的に、楽なことより正しいことをできるかどうかだ」ー本書より抜粋

正しいことをするというのは大変なことが多い。
しかも、正しさは状況・環境によって変化する。

ままならない現実の中でも、自分なりの正しさについて考え、その軸に基づいて行動すること。
そして他者の正しさに学ぶこと。

結末はどうあれ、そのように生きることにこそ意義があり、価値がある。
そんな風に感じる物語。

初のオーストラリア文学、1980年代が舞台ということもあり、若干の読みづらさはあったが、それを補って余りある面白さと丁寧な訳文だった。
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『Quel Che Affidiamo Al Vento』
©️Laura Imai Messina 粒良麻央 訳

2011年3月11日。
日付を見ただけで当時を思い出す人も多いほどの自然災害、東日本大震災が起きた。

「起きた」という言葉が不適切なほど、多くの悲しみと課題が今なお色濃く残る未曾有の惨劇の後、家族を失い遺された人々が味わった悲哀、そしてその傷が癒えていく様子を穏やかに描く。

岩手県大槌町に実在する「風の電話」を舞台に通、各々がそれぞれの「あの人」に語りかける物語。

失ってからでないと気付けないのは、今も昔も変わらない人の業か。

なぜ私たちは、失っては悲しみに暮れ、その悲しみを忘れてはまた失ってを繰り返すのか。

大切な人というのは人生に何人も現れるものではない。
願わくばその幸運が、その尊さが身近にあるうちに慈しんで欲しい。

そんなメッセージ性のあるお話に感じた。

訳者の伊和翻訳も素晴らしく、やわらかく優しい日本語になっている。
舞台や登場人物が本国なのも相まって、現代日本文学を読んでいる時と遜色ない読み易さだった。
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『Every Breath』
©️Nicholas Sparks 雨沢泰 訳

アメリカ、とあるビーチにぽつんと佇む一本の郵便ポスト。

折り重なる手紙が語るのは、誰かの抱えきれない悲しみ、誰かに伝わらなかった愛、あるいは伝わった想いへの感謝と別れの言葉。

ひときわ厚い原稿用紙の束には、奇跡的に巡り合い、必然的に別れ、そしてまた奇跡的に再会した二人の男女の物語が綴られていた。

二人の間にあるものというより、それぞれの人生を語ることに重きが置かれている。

「彼女は味わった落胆を、怒りや恨みにまで高めようとしなかった。彼女は人生が人の想像通りに運ぶほうがまれだとして、それを受け入れたのだ」ー本書より抜粋

誰にでも誰かの子だった時代がある。
そこにあったものは必ずしも幸福ばかりではなかったはず。

不幸を消化し、人生の一部として当たり前にあるものと昇華して、ようやく一人の人間として生きて行ける。

それは決して簡単なことではないのは、誰もが経験し、理解するはず。
それでもなお家庭を持ち、誰かの親として生きる人生を生きたいと思う。
その因果を考えさせられる一冊。

他人の幸福に責任を持つとはどういうことなのか。
二度と読み返すことはないと思いますが、一度読んでおいてよかったと思える本でした。
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