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りょちん♂

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創作小説【祝福】

第4話(前編)


涙をこぼしてしまった雲が、月を抱き込む。
地面に跳ね返る雫が、野犬の死臭を撒き散らしている。

今夜も”アイツ”がやってくる。
赤色の”アイツ”が。

「ごめ...くだ...い」

”アイツ”が家の戸を叩く。

「はい。」と返事をしようとするが、声が出ない。
何度試みても、声帯の振動が感じられない。身体に黒いモヤがかかっていて、自由が効かない。
そもそも、ここはどこなのだろう。自分の家ではない。
間取りは似ているが、確実に他所の家であった。

長い沈黙が流れる。いや、長く感じただけで短いものだったかもしれない。

「はい。」

突然、堰を切るように声が聞こえた。この声の主はオレじゃない。その声は気力に欠けていたが、よく聞き覚えのあるものだった。

芯があり、よく通る声。
毎日のようにオレに話しかけてくる声。
心配性のクセに、無神経を装っている声。
親友の声。

シゲルだ。

シゲルは膝に手を付き、ゆっくりと立ちあがった。
「ふぅ」と深呼吸をし、玄関に向かって歩き出す。

だめだ。行ってはいけない!

制止しようとするも、声が出ない。もしや、オレの姿すらも見えていないのか?

くそっ!シゲル!止まれ!止まってくれ!

声無き叫びも虚しく、シゲルには届かない。

一歩、また一歩と、シゲルの歩みは”アイツ”に近づいていく。ついに玄関口までたどり着いたその時、後ろから声がした。

「シゲル。」
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