『発光体の見る夢』1早朝五時半。実際のところは何時だか知らない。部屋の窓を開けて、身を乗り出し、煙草に火を点ける。夏の朝のこの時間は本当に気持ちがいい。余計なことは何もしないのがいい。そんなことを思ったのか思っていなかったのか、ただぼんやりと過ごす。脇から猫現れる。ゆっくりと道を横切っていく。白いろの猫。お腹も随分大きい猫。ぶーにゃんだ。朝早くから御苦労さんだ。猫の時間の中で、一緒に居させてもらう。決して邪魔はしないので、という姿勢で。猫とぼくは目を合わせた訳ではないのだが、むこうもぼくの存在に気付いていることが感じられる。猫は気にせずにゆっくりと道を横切る。自分も煙草を吸っては煙を吐き出す。道を渡りきった猫は、向かいのアパートの方へと進む。茂みに隠れてしまい、こちらからだと姿が捉えられなくなる。何やらゴソゴソとしているのは分かるのだけれど。やはりまた出てきて欲しい。祈るような気持ちで茂みの奥をじっと見つめる。すると、猫が現れたのと同じ場所から、今度は小さなおばあちゃん現れる。「人だ。」ぼくはその場からそっと離れ、静かに部屋の窓を閉めた。
何で『敵』か、は、小山薫堂みたいな松尾貴史が出てきたあたりで確信しました。たまたま読んだブッツァーティ『タタール人の砂漠』と一緒でしたから。春雨にみる絶望は、すでに同じ境地です。この映画は、敵が何か、よりも、春雨にみる絶望が監督やキャストを通して描かれてるところがいいなって思いました。長塚京三と黒沢あすかのお風呂のシーンなんかも良かったです。