
天田
あまたといいます。
今はまだここで何をしたら良いかわかりません。
言葉をくれたり、見つけてくれてありがとうございます。
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天田

天田

天田

天田
体や見目はこんなにも人であるというのに、私の中に潜む虎がバリバリと内側から私を喰らうのです。
ですから、そうです、今にきっと虎になってしまいます。
…いえ、虎では無いのかもしれません。私が虎だと思っているだけで。
そうだ、そうだ!鬼かもしれません。近頃たいへん物騒でしょう。ですから、きっと私の中に鬼が入り込んだのです!
でなければ、私が何故簡単に人の幸せを裏切ってしまうのか、てんで説明が付きません。

天田
深い眠りより浅く妙に夢を見て。
思考するんじゃなく、知覚してるだけの身体。
だから眠るんなら無機物に囲まれて眠りたいんだ。
けど人肌は恋しいの。矛盾。

天田
友人とめいっぱい遊んだり、可愛くお洒落したり、ドキドキしながら好きな人にくっ付いてみたり、昔みたいには出来なくて。
ベッドの隅で丸くなってタバコを吸ったりしてみる。
私の春は多分もう来ない。

天田
お線香よりタバコを添えて欲しい
飲み物はコーヒーかソーダがいい
お墓を拭いてくれなくてもいい
雑草なんかボーボーでもいいから。
私が死んだら、
私の事を忘れて生きて欲しい

天田
毎日誰かと話しても、毎分毎秒誰かと話すなんて事はない。
けれどね、送信した自分のメッセージをじっと眺めながら誰からも返事が来ないのを静かに待つ時間が、偶に来る。
たった数時間、たった数分、その何も無い瞬間がグラグラ心を揺らして、意味も無く押し潰されそうになって全身がゾワゾワする時があるの。
自分だって皆の返事を公平に絶対に返す訳じゃない、マメじゃないからなんて言い訳してるけど、ないから、分かるから、コロリと手の内に入り込んでくる数千年に感じる孤独や、他人の優先順位の自身の劣位に、自覚する瞬間に、自分の愚かさと哀れさに吐き気がするんだ。

天田
金木犀が好きな人が、金木犀を植えないといけないんだって。
それを聞いてから、金木犀が生えている所にはいつかいつの日か、金木犀が好きな人が居たんだ、って思って、思い切り匂いを吸い込むんです。

天田
これが、曰くサイダーという。
硝子の中の粒がぷくぷくあぶくを吹く様は、何とも珍妙で、氷をひとつ入れると忽ち騒がしくなった。
私がそれを初めて喫したのは10歳になった時だ。
やたらと舌が痺れて、訳の分からない甘さにくらくらしたのを憶えている。
それから飲み過ぎると泡を嘔吐くようだったけれど、次第に慣れれば、時折コップいっぱいに飲みたくなる様な気がしたりもした。
歯を溶かしてしまうから程々に、と言われて、子供心ながら密かに恐れていたのも懐かしい。
大人になって問正せば、知らぬから余計に恐ろしいのだと祖母は笑っていた。全くもってその通りだ。
小さな頃の私は自分の真っ白な歯が、この氷みたくあぶくに包まれて瞬く間に無くなってしまうのだと思っていた。
結局今でも本当に溶かしてしまうのかは分からないけれども、これじゃあ子供は信じるに決まってる、と飲む度に思う。
だからこうして氷を入れたり、それでストローでクルクル混ぜたりして、気泡が弾ける音を楽しみながら、炭酸を抜くのが私の癖だ。
…決して未だに溶けるのが怖いんじゃない。
あまり飲まない私には刺激が強過ぎるだけ。
カラン、と小さくなった氷が透明の中から顔を出すと何だか見透かされるようで、刺激が丸くなった甘いサイダーを一気に喉に流し込んでしまった。
私はもう子供じゃあないんだから、こんなものちっとも怖くなんかないのだ。
子供の私よ、まったく臆病者め。

天田
風邪ごときで、くう。
幼子じゃあないんだから。

天田
溺れてくれるくらい誰かに好かれてみたかったのです。
私は世間で言ったら賞味期限切れらしくって。それでも未だに願ってしまうんです。心の底から叫びたくなるくらい、誰かを愛してみたかったと。
愛されて、みたかった、と。
…単に私が気付かなかっただけなのかもしれないけれど。
一人きりの部屋で大口を開けて、コンビニのショートケーキを頬張って。
ああ、こんな甘い恋がしてみたかったわ。ごくん。

天田
くやしい。
おわり。

天田
特に珍しい夢ではないけれど、私は明晰夢というやつがどうにも多いらしいので、決まって最後は翼を生やして飛んで逃げる様にしている。
調子が良い日は晴れ渡る空をアクセル全開で逃げ切るけれど、悪い日は電線に怯えたり、どこまでも続く追い掛けっこに目眩がしたりするのだ。
今日は特に悪かった。
何処まで飛んで逃げても母が迫って来るから、目の前にあった「天使になれる小瓶」を一気に飲み干した。
すると体からスライムの様な体液が、異常な程溢れ出して、辺りを覆ってしまった。
母がそれに足を取られている間に、体はぶくぶくと泡立って、たちまち立派な翼が生えた。
天使になれたのだと嬉しくなって大空を飛んでいたら、禍々しい悪魔がパッと現れた。
「そんなに都合の良いものが、誰でも手の届く場所にある訳がない」
悪魔は笑っていた。
それもそうだ。何の代償もなく、欲しい物が簡単に手に入る様な、私の為にある世界ではなかったのだ。
私は主人公でも何でもないのだった。
悪魔は母から私を逃がしてくれたが、私は代わりに天使でも人間でもない、力も立派な使命も何も無い「何か」に成り果てた。
誰かが呟いた「人間は空を飛べないらしい」という言葉が、何となく胸に引っ掛かったまま、私はただの人間として布団の中やるせなくもう一度目を閉じた。

天田
歯科の先生に「虫歯、持って帰りますか?」と聞かれた。特に要らなかったけど、何となく持って帰る事にした。
思えばここ数週間、こんな小さな歯ひとつに悩まされていたのが何となく憎くて、信号を待ってる間、ジップロック越しの黒ずんで欠けた親知らずと睨めっこをしていた。
こんなんで私はまたアイスを食べられる様になるのだろうか。
甘いものなんかも何にも気にせず食べられるのかしら。
暫く歩いていたらちょっとだけ、歯ひとつ分が空いた口の奥がずきずき痛んで、やっぱりアイスはまだ早いと、虫歯をポケットに無理矢理捩じ込んだ。今夜も雨が降るんだろう。