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ミチフミ龍之介

ミチフミ龍之介

季節が流れる、城寨が見える  ♯ 88

#ランボー詩集 #中原中也訳


ニイナを抑制するものは      

     彼曰く──

 そなたが胸をばわが胸の上(へ)に、   
     そぢやないか、俺等(おひら)は行かうぜ、
 鼻ン腔アふくらましてヨ、   
    空ははればれ
 
 朝のお日様アおめへをうるほす   
    酒でねえかヨ……
 寒げな森が、血を出してらアな   
    恋しさ余つて、
 枝から緑の雫を垂れてヨ、   
    若芽出してら、
 それをみてれアおめへも俺も、   
    肉が顫はア。

 苜蓿ン中(うまごやし)おめへはブツ込む    
    長エ肩掛、
 大きな黒瞳のまはりが青味の
    聖なる別嬪、
 田舎の、恋する女ぢや
    おめへは、   
 
 何処へでもまるでシャンペンが泡吹くやうに   
    おめへは笑を撒き散らす、
 
 俺に笑へよ、酔つて暴れて
    おめへを抱かうぜ
 こオんな具合(ぐえイ)に、──立派な髪毛ぢや   
    嚥んでやらうゾ
 
 苺みてエなおめへの味をヨ、   
    肉の花ぢやよ
 泥棒みてエにおめへを掠める   
    風に笑へだ
 御苦労様にも、おめへを厭はす   
    野薔薇に笑へだ、
 殊には笑へだ、狂つた女子(あまつこ)、
    こちのひとへだ!……
 十七か! おめへは幸福(しヤはせ)、
    おゝ! 広(ひれ)エ草ツ原、
 素ツ晴らしい田舎!   
    ──話しなよ、もそつと寄つてサ……
 
 そなたが胸をばわが胸の上(え)にだ、   
話をしいしい
 ゆつくりゆかうぜ、大きな森の方サ   
   雨水の滝の方サ、
 死んぢまつた小娘みてエに、   
   息切らしてヨウ
 おめへは云ふだろ、抱いて行つてと   
   眼エ細くして。

 抱いてゆくともどきどきしてゐるおめへを抱いたら   
   小径の中へヨ、
 小鳥の奴めアゆつくり構へて、啼きくさるだろヨ
    榛(はしばみ)ン中で。

 口※中へヨ俺ァ話を、注ぎ込んでやら、    
    おめへのからだを
 締めてやらアな子供を寝かせる時みてエにヨウ、   
    おめへの血は酔ひ
 
 肌の下をヨ、青ウく流れる
    
つづく…。
GRAVITY
GRAVITY15
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