【謎の東洋人Xの自衛隊怪談】第7話『老婆(前編)』これは北海道の道央エリアにある駐屯地にまつわる話だ。私はこの時この駐屯地に所用があった中隊長の御抱え運転手として勤務していた。日頃運転慣れした専用の大型車(11t)とは云え『偉いさん』と2人だけというのは非常~に疲れる。よくドラマとかで社長車の運転手という役柄を見るがアレってメチャクチャしんどいんだろうね。自衛隊内の自動車訓練学校で叩き込まれた動作に忠実に道交法順守で4時間程度走り、目的の駐屯地に到着する。「もうすぐ5時だから君は宿舎に入ったらもう休養しなさい。明日についてはまた朝にでも予定を立てればいいから」2泊3日の工程だから中1日の間があり、中隊長は仕事だが私は運転手勤務だからこちらで有給休暇を取り市内観光等しても構わないという話だった。中隊長と立ち話をしていると向こうの駐屯地指令と事務方が数人やって来て事務方の隊員が私を宿舎に案内してくれた。通常他の駐屯地からの来客はBOQ(外来宿舎)という場所で寝泊まりする。勿論中隊長は幹部用の宿舎で私は一般宿舎だ。一般宿舎は通常は大部屋である事も多い。私が通された部屋もベッドが6つ並んだ部屋だった。「好きなベッドを使って下さいね」事務官はトイレや風呂について一通り説明すると軽く会釈をして出て行った。さて自衛隊のベッドなんざどれも寝心地は似たり寄ったりで正直どれでもいい。ならば外の景色が見える窓側にするか?と思い窓に面したベッドに荷物を置こうとしたら事務官が慌てて戻って来た。「言い忘れてました。窓側のベッドは古くて軋み音が激しく寝れたものではないですから使用を禁止になっていますので」それだけ言って再び去って行った。私は仕方無く入口ドアに近いベッドに決めて荷物を置いた。程無くして5時になり夕食時間を告げるラッパが鳴った。他の駐屯地で食事をするのは滅多に経験出来る事ではない。多少ウキウキしながら食堂に向かっていると、「おぉっ!珍しい奴を発見!」と声を掛けられた。見ると自教、自動車訓練学校の同期だった。訓練学校は全ての駐屯地にある訳ではなく数ヶ所の駐屯地につき一つしかない。だから免許を取る隊員はその駐屯地に集まり、俗に言う合宿免許のような形で免許を取る。厳密には一年程先輩だが自教では同期となる。会うのは一年半振りくらいだろうか。