『謎肉(1/2)』 カップヌードルの具材の中のひとつである、謎肉。 あの茶色くて小さなキューブ上の成型肉である。 ある日ふと、その正体が気になったので、謎肉加工業者を訪ねてみた。 受付で事情を話すと、業者のおじさんは快く工場に通してくれた。どうやら、今日は工場見学ツアーの実施日らしく、その団体に混ぜてもらえるようだ。 「運が良かったな」なんて思っていると、ツアー客達がぞろぞろと動き始めたので、その後を追いかけて工場内に入っていく。 最初の区画では、今朝入ってきたばかりの新鮮な謎の仕分け作業が行われていた。『三組の山下さんが好きな人は誰?』『あの誘拐事件の犯人は誰?』『今日買ったA君と、昨日買ったB君、得したのはどっち?』『先週買った石油ヒーターが動かないのはなんでだろう?』 多種多様な謎がジャンル毎にコンテナに入れられていく。「最近は『昔やってたソシャゲのパスワードはなんだっけ?』って謎がよく入ってくるんですよ」 そう教えてくれたのは、この仕分け工程の責任者らしき初老の男性だった。 丁寧にアイロン掛けされた作業着を身にまとったその男性は、マスク越しにも分かる笑顔を浮かべながら、「わからないことがあったら、何でも聞いてくださいね。じゃないと、新しい謎が混入してしまいますからね」 冗談めかして言っていたが、それが本当かどうかはわからない。「では、次は謎肉の加工工程を見ていただきます」 見学ツアーの案内役に引率されて、大きな扉を潜って工場のさらに奥へと進んでいく。 ひんやりと冷気が漂うエリアに案内された。先ほどの区間に比べ、天井がだいぶ低くなった。 そこでは、大きな謎がいくつも吊るされていた。「ここで、十分に膨らんだ謎を寝かせて熟成しています」