強烈な尿意に襲われることがよくあって、そんな時には必ず近くにトイレが無い。近くにトイレが無いからトイレを発見するまでの間、必然的に我慢しなければならず尿意が増すのであって、そもそもトイレが近くにあれば尿意が強烈なまでに成長する前の段階で平凡に排泄できるのだから強烈な尿意を感じることもない。それで昨日、知らない街の知らないコンビニでトイレを借りた。尿意を我慢しているのを周りに悟られ心配をかけてはいけないので、深刻な精神状態生理状態とは裏腹に顔面は知らぬ間に、『夜何食べよっかな』という平然で無ければ到底考えないようなことを、まるで考えているような表情を作っていた。ようやく飛び込んだトイレ。『飛び込んだ』と言ってもそれは精神状態の話であって、実際には『見せたいものがあるから』と孫に急かされ『そないに言うならどれどれ』と仕方無しに重い腰を上げた老人のような所作で、余裕の雰囲気を十二分に醸し出しながらトイレに入った。鍵まではゆっくり閉めたが、その後は急ぐ急ぐ。気持ちの中ではチャックをおろし終わった頃に、現実ではチャックに触れるくらいの時差を心と身体で感じていた。そんな時に顔を上げたら壁に不思議な絵が貼ってあった。『もう一歩前へ』、と促す絵なのだろうけど何かそこはかとなく漂う阿呆さが妙に気になる。急いで小便しながらも、出来るだけ音を立てないようにしている自分に誰に気を使ってんねんと自戒しつつも、やはり極端過ぎる絵が気になって頭ごっちゃごちゃ。トイレを出たらバックルームで店長と思しき男性が椅子に座っている背中が見えた。あの人が描いたのだろうか?他の作品もあるのだろうか?ちょっとファンみたいになってもうてるやんと再び自戒した。