#映画 #Gravity映画部 #hulu #千年の愉楽 #若松孝二 2013年公開『千年の愉楽』若松孝二監督の遺作となる。被差別部落の“路地”に生きる人々の生と性と死を描いた人間ドラマ。“路地”の唯一の産婆オリュウノオバは床の中で死の間際にあった。路地で産まれるほとんどの子を取り上げた彼女は中でも“美しい容姿ながら儚い運命にある中本家の男たち”に想いを馳せる。中本の血に抗い、流され、惑わされ、刹那の時を駆け抜けた彼らの面影を亡き夫に語りながら、彼女がたどり着いた境地とは—神秘と狂気、崇高と猥雑が作品から溢れる人間讃歌である。終始昏く、人間の負を強調しておきながら、全てを受け入れるオリュウの存在はあらゆる生を押し流す時の流れのようで、後味は悪くない。中上健次の原作では路地は和歌山県だが、撮影は三重県、奄美出身という中村瑞希の三味線と立ち上る霧は舞台をどこでもない秘境のように見せている。人々は肩を寄せ助け合い生きているが時代から取り残されやがて時の砂に紛れて忘れ去られそうな、そんな儚さを醸し出している。呪われた中本の一族の男たちはまさにその儚さの象徴であり、自分だけは血に抗い、精一杯生きようとするものの、ある者は享楽的に放蕩し、ある者は刹那に生きる活力を見出し、またある者は路地を出るが、結局は運命に絡め取られていく。キャスティングが絶妙であり、寺島しのぶはじめ、路地の出身者は和風の薄い顔立ち。これに対し中本の男は高良健吾、高岡蒼甫、染谷悠太と、はっきりとした目鼻立ちで、周囲の中でも明らかに異彩を放っており、ビジュアルとしても説得力を持たせている。ふざけてみたり、いきがってみたり、中本の血を気にも留めないふりをしながらも、実は深く囚われており、その濁流に呑み込まれる不運をそれぞれ繊細かつ大胆に演じている。また若松孝二監督が何度も主演に据える寺島しのぶはここでも気迫の籠る名優ぶり。産婆=第二の母としての顔、誰より男達に近い存在である自負からくる女としての顔、そして時の流れそのものとしての顔を見事に切り替え、狂言回しにとどまらない柱となる。『生まれて、死んで…生まれて、死んで…』時鳥の囀りにやがてその呟きも消え、深い余韻を残す秀作である。