夜中に腹が減ってどうにもならなかったのでインターネットの海を犬掻きすることにした。青白く光る冷蔵庫の奥底は、何度覗き込んでも暗い気持ちにさせられるばかりだ。岩戸を塞ぐ岩のように重々しい扉を閉めると、ひとりでにため息が漏れる。思案の末、背面がすっかりひび割れてしまった携帯電話に「枝豆 アテ ワイン」とかなんとか打ち込むと出るわ出るわ。枝豆アンチョビガーリック。枝豆明太チーズ和え大根挟み。枝豆とゴルゴンゾーラチーズのムース。定番ネタから、もはやそれは店で食べた方が早いんじゃないか?と思わせられるようなものまで枚挙にいとまがない。ただレシピを見ているだけなのに、いつの間にか食べているような気分にさせられてしまって、空腹はどこかに飛んでいってしまったが、構うものかとばかりに、リンクをタップする指は止まる気配をみせない。本末転倒な気がしなくもないが、そうか、もしかしてこれが世に言う食指なのか。思わぬところで学べば学ぶものだ、とかそんなしょうもない感慨をよそに、枝豆レシピは爆発的な速度で次々と脳に飛び込んでくる。枝豆のすりながし、枝豆とサーモンのカルパッチョ、枝豆のガーリック焼きうどん、枝豆クリームチーズ添え、香ばしクミン枝豆、枝豆と桜えびのチーズガレット────。頭の片隅ではとっくにうんざりしているのに、やめられないとまらない。そんなふうにしているうちに、変なページに辿り着いた。画面には無機質な白抜きフォントでこう書いてある。「あなたがロボットではないことを証明するために信号機の画像を選んでください」指がぴたりと静止する。まじまじと指を見つめる。さっきまでの猛獣みたいな暴れっぷりが嘘みたいだ。狂熱めいたものは残り香すら消え失せている。画面に目を戻すと、猛獣使いからのメッセージがそこに変わらずあった。「あなたがロボットではないことを証明するために信号機の画像を選んでください」ぼくは自分がロボットであったことを思い出し、ページバックすると、タブを消去した。