季節が流れる、城寨が見える ♯ 73#ランボー詩集 #中原中也訳 孤児等のお年玉 Ⅲ 諸君は既にお分りでせう、此の子等には母親はありません。 養母(そだておや)さへない上に、父は他国にゐるのです!…… そこで婆やがこの子等の、面倒はみてゐるのです。 つまり凍つた此の家に住んでゐるのは彼等だけ…… 今やこれらの幼い孤児が、嬉しい記憶を彼等の胸に 徐々に徐々にと繰り展げます、 恰度お祈りする時に、念珠(じゅづ)を爪繰るやうにして。 あゝ! お年玉、貰へる朝の、なんと嬉しいことでせう。 明日は何を貰へることかと、眠れるどころの騒ぎでない。 わくわくしながら玩具を想ひ、 金紙包みのボンボン想ひ、キラキラきらめく宝石類は、 しやなりしやなりと渦巻き踊り、 やがて見えなくなるかとみれば、またもやそれは現れてくる。 さて朝が来て目が覚める、直ぐさま元気で跳ね起きる。 目を擦つてゐる暇もなく、口には唾(つばき)が湧くのです、 さて走つてゆく、頭はもぢやもぢや、 目玉はキヨロキヨロ、嬉しいのだもの、 小さな跣足(はだし)で床板踏んで、 両親の部屋の戸口に来ると、そをつとそをつと扉に触れる、 さて這入ります、それからそこで、御辞儀……寝巻のまんま、接唇(ベーゼ)は頻つて繰返される、もう当然の躁ぎ方です!