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あきら

あきら

「成瀬は天下をとりに行く」

今年の本屋大賞を受賞した小説。

200歳まで生きる!と宣言する成瀬あかりを、その周辺の人々の視点で描く、群像劇。

物語は、成瀬あかりの
「島崎、私はこの夏を、西武に捧げようと思う」
と言う宣言から始まる。

実際に2020年に閉店した滋賀県の西武デパート大津店の、閉店までの一カ月間に情熱をかける成瀬あかりのエピソードで、物語は幕を開ける。

物語は成瀬あかりではなく、彼女に関わる様々な人々の視点で描かれる。

成瀬あかりは、傍目にはかなり破天荒な人間だ。

中学生にも関わらず愛嬌などまるでなく、冗談を解する様子もない。

常に真っ直ぐで真剣で、変人の域に達している。

普段冗談など全く言わないくせに
「私はお笑いの頂点を目指そうと思う」
と宣言して、幼馴染を巻き込んでM1グランプリに出場したりと、行動力が桁違いだ。

でも成瀬あかりは、回りのことを気にしない単なる迷惑系の変人では無い。

彼女の魅力は、次の台詞に現れていると思う。

「私が思うに、これまで200歳まで生きた人がいないのは、ほとんどの人が200歳まで生きようと思っていないからだと思うんだ。200歳まで生きようと思う人が増えれば、そのうち一人ぐらいは200歳まで生きるかもしれない」

そして彼女はその言葉を実践すべく、アスリートのように禁欲的な日々を送り、関わるすべての人の安全を願って接し続ける。

これほど真っ直ぐな人間が、魅力的で無い訳がない。

成瀬あかりの中学、高校時代が様々な人間の視点で描かれていき、彼女の人物像が次第に立体的になっていくなか、最終章で満を持して成瀬あかり視点の物語が語られる。

何を考えているのかずっとわからなかった成瀬あかりが、ある出来事を通して葛藤していく様子が、青春物語として実に尊く、清々しい。

読んだら絶対に成瀬あかりのことを好きになるので、ぜひ読んでみて欲しい。




ちなみに、この物語では成瀬あかりの容姿については、一言も触れていない。

続編「成瀬あかりは信じた道をいく」の中の「琵琶湖大津親善大使」に就任するエピソードで、それなりに容姿が良いであろうことや、背はそれほど高くないことの匂わせはある。

でも本作はあえてそこに触れないことが、逆に新鮮で良かった。
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