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manacuba
以下、書きかけの恋愛小説『恋の罪、至上の愛』より、
本との出会いは文字通り一期一会だよ。彼の言葉が私の意識の言葉の領域に浮かんでくる。人間は利便性の良さを確かめるために生きているんじゃないんだ。田舎の高校生がいつも漫画雑誌を買う近所の書店ではなく、休日に一人で都心の大型書店に赴き———我々の現実のロールプレイング・ゲーム———美しい装丁の———書の内容の想像を掻き立てる———ジャン・ジュネの『泥棒日記』を見つけるだろう。これは私———彼は常に自分を「私」と言う———の経験でもあるのだけれどね。彼から語られる美しい青春の名場面は同時に私の文学を知り始めた頃の過去の現実だ。あ、あのね。わ、私。彼はそこで話をやめ、じっと私の目を覗く。私のなかにめずらしい色彩の魚がいるかのように。私はそのお互いにとっての記念碑のタイトルを口にする。ゆっくりと興奮をおさえながら。『泥棒日記』。私も知っています、せ…。彼にたいして先生と呼びそうになって少し慌てる。彼は穏やかに私の目を見つめたままだ。私は続ける。私も知っています。犯罪者のジュネによる同性愛者の物語。それから彼のデビュー作『花のノートルダム』。彼は頷く。この二冊は今でも私の部屋の本棚にあります。ベッドから手を伸ばして時々寝る前に読むともなく読みます。詩集を読むみたいに。

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