共感で繋がるSNS
人気
なまえは、まだない。

なまえは、まだない。

    「冬桜が咲く頃に」
第6話
 前回あらすじ
 小説家見習い花は、友基との宛名違いで届く手紙のやり取りを続けていた。ある日、家の庭にある寒桜が満開になった。誠と花は2階のベランダから桜を見下ろしながらお花見をしていた。そんな2人を見つめる人物がいた。
 花は、気に留める様子もなく楽しくお花見を繰り返していた。

 桜様
 先日は、お花見をしていましたね。すっかり家の前の桜も満開でした。あなたは、とっても楽しそうに笑っていましたね。少々お酒が過ぎるようで、ほっぺが赤くなるあなたは、相変わらず変わってないですね。でも、寒くなるので体には気をつけてください。          友基
 花はこの手紙をもらって薄気味悪くなった。わたしのことを知ってるひと?あの日、お花見をしていたことを遠くから見ていたってことだ。 
 その時だった、あの日ふと思い出したのは2階から見下ろしたときに見たある人物のことだった。ご近所さんにも知り合いはまだいなかった花は、黒いコートの白髪のおじさんがこちらをみていたことを思い出した。
 年末から風邪だと思い込んでいた花は、まだ微熱が治っていなかった。それどころか、咳が治らず、痰に血が混ざり始めていた。そんな時だった、健康診断の二次検査の用紙が届いているのもすっかり忘れて友基への返事を書いていた矢先、目に入ったのは、精密検査のお知らせだった。
 家の前の桜の木の下に花弁の絨毯ができ始めていた。一月も終わりに近づくにつれ、咳が止まらなくなった花は病院に受診し精密検査を受けた。
結果は悪性の腫瘍だった。医者からは、「今年の桜は見れないかもしれません」と言われてからは
花は何も聞こえなくなった。診察券を途中で落としてしまい、そばにいた看護師が失意の花を抱き抱えるようにして立ち上がり病院をあとにした。
誠にもそのことは言えなかった。

友基様
あなたは、あのお花見の日に我が家の近くまで来ていましたね。黒いコートの男性をお見かけしました。あの日は、とっても楽しかったんです。夫と初めてお花見をした日だったのと、夕陽に照らされる桜がこんなに美しいものだったなんて思いもしませんでした。
 このお家も、古い家ではありますがとても几帳面に手入れされていました。よかったら、遠くから見ていないで声をかけてくださりませんか?きっとこの桜を気に入って遊びに来られたのですから。
GRAVITY
GRAVITY12
関連検索ワード
おすすめのクリエーター