行きつけの古本屋に、あらかじめ電話をかけてから本を売りに行きました。―――どれくらいの量です?―――そうスねぇ……。段ボール三箱ってところかな。―――あ、じゃあ車で来る?―――いや、歩いて行きます。―――あるい……待ってますよぉ。よっこいショーイチ。アルミの背負子に宅配サイズ140の段ボールを三つ結わえて、私は鼻息荒く出発しました。オゥ、ユーノウワッイリーズ?イッツコールド、ボッカ、インジャパニーズ。アイヴスィーニッイン、オゼ。ボッカ?ヘル、イェア、ナウ、アイアム、古本歩荷。なんてことを思いながら外国人観光客の奇異な視線をいっぱい浴びて、坂を登っては下り、坂を登っては下り、ようやっと目当てのお店へ辿り着きました。「あっは、ここ山小屋じゃないんだけどなァ」なんて迎え入れてくれる店主はかつての学生運動の残党。いつか観た『PERFECT DAYS』を熱っぽく語り、去年亡くなった東アジア反日武装戦線メンバー桐島聡の死を真摯に悼み、そのくせ見た目は百田尚樹そっくりという、非常に気づかわしい情熱的な人物です。とまれ、無類の本好きときて相場よりもだいぶ買値に色をつけてくれるので、いつも大変にお世話になっています。お客さんのいないときなどはコーヒーを出してくれたりして、私はこの店主のことが割と好きなのです。「フミさん、ゼネストですよ、ゼネスト」ちょっとなに言ってるか分かんない。コーヒーは?……あ、今日はくれない。オッケー、また来ます。古井由吉自撰作品集がけっこう高値で売れたので、そのお金で飲みに行きました。曇った寒い夜、コンクリート塀にやたらカラスが留まっておりました。冷やかしてンのかな。春の邪魔をするな。止めるな、おれを。