「憎みたくない相手を憎まねばならない苦しみ」小野不由美著「十二国記 華胥の幽夢」の中の「乗月」という話の中に、そのような台詞がある。ひとつ前の投稿で、連絡なしに訪れた母の話を述べた。心ならずも母の行為を咎めねばならなかった。その時の私の胸中は、まさに冒頭の台詞のようなものだった。「次からは事前に言ってください」そう言ってその場を収めることは、造作もないことだ。しかし、私はそれをやらなかった。それをしてはいけないと考えた。これまでも、ずっとそうだったから。「一言断れば良いだけなのに。なぜそれをしないのか」そこに私の意思はない。あるのは、母自身の思いのみ。若い頃から数え切れぬほど、やり合ってきた。鉄の信念の持ち主だった。自らの正義しか信じられない人だった。「私の自尊心を踏み躙るのはやめてもらいたい」そう訴え続けた。母の生前、そして今もなお、妹はそんな私を"ガキ"となじる。どうなじられようが構わない。私には、自分の意思がある。そんな簡単なことをただ理解してもらいたかった。そのことを母には最後まで理解してもらえなかった。そして、その機会は、永久に失われた。#十二国記 #華胥の幽夢 #乗月 #小野不由美