私は、毎年冬場になると、室内着としてフリースを着用する。これを着始めたのは、中学生の頃だっただろうか。だとすると、既に35年は優に着続けていることになる。最後の帰省の際に、このフリースを着て帰った。しかし、襟元の布地が傷み、破れていることに気付いた。そのことを母に伝えると、「よくもこれだけ長い間着続けてくれた」と感謝の弁を口にし、補修を買って出てくれた。弟も私と色違いのフリースを同時期に買ってもらったはずだが、最近彼が着ている姿は見ていなかった。それを母に伝えると、「もう自分で処分したのかもしれない」と答えた。「銀座の店で買った仕立ての良いもの」と言うものの、私の物の方が少し高かったとも言うので、「そんなことを言っては、彼(=弟)が傷つくよ」とたしなめたが、「いいのよ」と全く意に介さない。昨年の初夏までは衣替えの際に普通にクリーニングに出したから、破れたのは昨年の冬場のはずだ。母にはこれまで、セーターの焦げ跡など幾つも繕い物をしてもらってきたが、このフリースの補修が最後となった。今年はもうクリーニングには出せなかった。自分で洗って仕舞った。フリース本体がボロボロになってしまわぬかぎり、おそらくこれからも着続けるだろうと思う。最後の帰省。そう、私の帰るところは、もう、ない。#ふるさと