昭和流行歌総覧 ♯ 40灰田勝彦 .35 昭和19年8月の新譜は♫海の勇者(つわもの) これは前年の6月9日に既に録音されていたものだ。戦時中のこと、軍関係の横槍かはたまた何かの戦勝事のタイミングを測っていたのかは不明だ。次のシングルは♫斬って捨つべし 何やら血生臭いタイトルだが、佐伯孝夫の詞だからそんなに生々しい歌詞でないことは察しがつく。それにしても戦争末期になればなるほど日本の国力は疲弊していった。よって発売される軍歌や流行歌のタイトルや歌詞なども露骨になってゆく。同時期の流行歌のタイトルだけ拾っても悲壮感や是が非でも勝つ、と云った国民の士気を下げぬような強引なやる気感を押し付けてきて、かえって引く。日本に居た国民らの間でも大本営が嘘の情報を実際には流していたことは、隠れて海外受信網や短波を通じて知っていた人間から横に漏れて行き、大方はバレていた。 昭和19年の灰田勝彦の最終レコードはA面が我らのテナー藤原義江の♫特幹の歌 そのB面♫兄は征く 。征くは、出征の征く。つまりお兄さんが兵隊へ征く、と云う意味だ。録音は前年の8月24日である。私の推測だが、この時期の流行歌はデモクラシー時期に比すれば激減している。 リリースしようにも内務省の検閲が控えてる。 その検閲もかなり厳しさが増してきていたし、第一、内務省と言えどもかなりな人数が兵隊に取られて最早、役所の機能不全も極まってきていたに違いない。きっと録音から試聴盤を製作して内務省提出→検閲→面接→審査→発売可否の結果通知を経て漸く発売に漕ぎつける。そんなこんなで数ヶ月から半年は掛かっていたものと思われる。 これは各レコード会社にも言えることだ。 こうしていよいよ昭和20年に入るが、ビクターはこの年一枚もレコードをリリースしていない。 従って、灰田勝彦のレコードも一枚も発売されていない。 次回からはいよいよ戦後に至る。