共感で繋がるSNS
GRAVITY

投稿

エブリン・ワン

エブリン・ワン

『悪は存在しない』補助線(多分)と感想⑺

◾️巧とハナの一方通行な関係性(2/2)

一方でハナは森林を上を向いたまま前に進む。「上」は死別した母親の居場所を暗示している。怪我をして死んだ子鹿の死体、手負の親子鹿。未開地を周囲の危険に無防備に上を向き歩くハナもまた「死」に無自覚に無防備になっている。子供特有の死に無防備であるからこそ開かれて、言葉や社会記号では捉えたり表現することができない社会システムや経済の論理の外の「世界」を感じる感覚を獲得できる限られた期間。空間ではなく場所を生きる開拓民にとってのその大切さを知っているからこそ、巧はハナが未開地に入ることを止める事はない。

意識科学の世界では、世界をすべて把握する事は不可能で、自己とは1個人の自己現象(体験からなる世界構築)である。個人個人がそれぞれの世界認識を持ちどのような世界認識を持つかを評価関数的に決めるのが自我である。そのため人の数だけ「世界」が存在しそれぞれ違う世界で生きていると言える。

予測符号化理論によって自然のちょっとした兆しから危機を察知し自らを守るためには、意識の自由エネルギー最小化(いちいち目の前の事実を確認する前に経験からなるコード(行動の型)によって予測し回避行動や狩行動を開始する)を獲得するための未開の地での危険な体験の積み重ねが不可避である。巧の妻はそれがなかった事で死んだのであれば娘のハナにその力をつけたいという強い動機が理解できる。

後ろと上。互いに異なる方向を向く2人。ただ、巧がハナを背負って未開地を歩く時だけは、2人は同じ世界に入り前を向いて歩く。
GRAVITY
GRAVITY1

コメント

まだコメントがありません
関連検索ワード

『悪は存在しない』補助線(多分)と感想⑺