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ペインター
夕暮れの土手道 3
ただのクラスメイト。
予備校がたまたま一緒だっただけ。
帰り道がたまたま一緒だっただけ。
少し勉強が出来るお陰で、先生紛いのことをしてただけ。
性格も、住んでる世界も違うことはわかっていた。
余計な一歩を踏み出して、この、形容し難い土手道の時間を壊したくなかった。
いや、そもそもそんな気持ちがあったのかも正直わからない。
好きとか…別にそういうものではなかったかもしれない。
色んな理由で亜子は自分を必要としていたし、自分も亜子との時間を必要としていた。
それだけなのかもしれない。
二人の人間の、道と時間が重なっただけ。
それでも、自分の中で何かが変わっていくのがわかった時間。
そりゃあ、亜子が自分のことを好きならいいなとは思ったこともあるけど、恋心、というのとは違っていたと思う。
「最後だから言うけどさ、私ね、勇人のこと、かっこいいなって思ってたんだよ。」
「何だよ、それ」
そう言われて、もちろん悪い気はしない。
そして、最後という言葉を聞いても、ほんのちょっと心がチクリとするけど、判りきってたこと、と思う。
「勇人って、顔もいいし、優しいし、勉強できるし。アレ?実はお得物件なんじゃない?」
そう言って、亜子は自分で噴き出していた。
「はいはい、どうも。」
勇人も笑う。
亜子が、恋愛的な告白として今の言葉を言ったのではないことは、よくわかった。
多分、お礼の一環としての、褒め言葉。

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