誘われれば割となんでも。 | 白（つくも）の投稿-Gravity SNS

フーディーニは当時、大流行していたスピリチュアリズム（心霊主義）を詐欺と見なし、厳しく批判していた。彼のキャリアから判断すると、フーディーニは死を目の前にした場合でも、極端な合理主義者だったと言えるだろう。しかし、常に死に備えていた脱出王の最期は、ファンや国を驚かせた。

1926年10月、人気の絶頂にあったフーディーニはカナダのマギル大学で公演するためにモントリオールにいた。ある学生がフーディーニに腹筋の強さを尋ね、パンチに耐えられるかどうか問うた。フーディーニが耐えられると答えると、その学生は、彼の腹部を殴った。

殴打に備えていなかったフーディーニはかなりの衝撃を受けたと考えられる。1週間ほど後の1926年10月31日、フーディーニは米国デトロイトにて52歳で亡くなった。死因は虫垂炎に起因する腹膜炎だった。

腹部への殴打が致命的だったのか、あるいは盲腸が破裂したことにより、殴打とは無関係の腸の病気で亡くなったのかについては議論が続いている。フーディーニは遺言で、手品の演出用品や小道具は弟のダッシュに譲り渡し、ダッシュの死後は焼却するよう求めていた。

長い年月の間に、フーディーニにまつわる多くの伝説が生まれた。ロシア皇帝に謁見した際、手を上げただけでクレムリンの鐘を鳴らしたというのもその1つで、映画監督で俳優だったオーソン・ウェルズが広めたエピソードだ。

これは、フーディーニが超常現象に敵意を抱いていたことを考えれば、到底ありえない。しかし、このエピソードを信じている人がいることは、フーディーニのキャリアに見られる大きな矛盾を表している。最も合理的だったこの男が、まるで魔法の力によるもののような技を見せていたということだ。死後1世紀近くが経つ今もなお、ハリー・フーディーニは超自然のオーラをまとっている。

文＝Nacho Ares／訳＝三好由美子

写真の説明：1908年、米国マサチューセッツ州ボストンで撮影された写真。鎖で縛られたフーディーニがチャールズ川に飛び込もうとしている。（BRIDGEMAN / ACI）