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木綿豆腐をかぶりつく
題名【捕まえて】

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✩あゆこ✩


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宇宙人
とっとっとっ…と早い鼓動が宇宙人の健闘を讃えているかのようだった。浅く息を弾ませながら宇宙人は立ち上がる。
ぷるぷると震える脚は、まるで生まれたての子ヤギのように脆弱だった。宇宙人は小さく苦笑し、鈍ってしまった脚を撫でる。サボっていたツケを感じた。自業自得だな…と独言ち、手すりに掴まりながら進んでいく。しかし不思議と晴れやかな心持ちだった。筋トレというのは人の心を再生させる効果があるのかもしれない。痛めつけられた筋肉たちはまるで宇宙人を励ますかのように、新たなる再生の日を目指して小さく蠢いていた。
宇宙人はさっぱりと乾いたタオルで汗を拭きながら窓を覗く。冬枯れの街はまだ日に照らされていた。今日という日を完璧な形で終えたい…珍しく欲が出たので、お豆腐買いに行くことにした。
外は爽やかな涼しさで、今日が小春日和であることを教えてくれる。宇宙人はうっすらと瞼を伏せて日光の暖かさを味わった。いつもの道をいつものように進み、静かな面持ちで角を曲がる。お豆腐屋ののれんをくぐると、気のいいご主人がいつものように迎えてくれた。宇宙人は柔らかな挨拶を交わし、静かにご主人の目を見て言った。
…👽キヌイッチョウクダサイ🔲
もう過去は振り向かない、体重のことだけ考えよう…
そんな決意に溢れた声音だった。
宇宙人は静かなスタートを切ったのだ、と自分を少し誇らしく感じたのだった。
アイヨっという威勢のいいご主人の声と、渡された絹どうふが、宇宙人の未来を支えていた。
〜完〜
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