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異世界レット

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一艘の小さなシャトルと、孤独な船長
瀬戸内海の穏やかな朝焼けが、今治の造船所をオレンジ色に染めていた。小さな鉄工所「村上鉄工」の二代目社長、村上健太は、事務所の窓から静かに海を眺めていた。創業者の父から受け継いだこの会社は、かつては地域の造船業を支える重要な存在だったが、時代の波には逆らえず、今は細々と漁船の修理や小さな部品の製造で糊口をしのいでいる。

健太は、多くのことを一人で悩み、一人で決めてきた。新しい機械の導入、資金繰り、従業員の雇用維持。どれも会社の命運を左右する決断ばかりだった。ベテランの職人たちに相談することもあったが、最終的な責任は全て自分が背負う。うまくいけば皆で喜びを分かち合えるが、失敗すれば、孤独な批判に晒される。特に、資金が潤沢ではない中小企業の社長は、文字通り、一人で何役もこなさなければならない。経理も、営業も、時には現場の作業まで。まさに、領域なきシャトルのように、会社の隅々まで目を配り、臨機応変に対応する必要があった。

「うちの会社は何のために存在するんだろうか…」

健太は、ふとそんな疑問が頭をよぎることがあった。ただ、目の前の仕事をこなすだけで精一杯の日々。地域経済への貢献、顧客への価値提供、そんな大義名分を考える余裕すらなかった。しかし、漠然とした不安がいつも心の奥底に漂っている。このままでは、いつかこの小さなシャトルは、目的地を見失い、漂流してしまうのではないか、と。

ある日、長年勤めてくれたベテランの溶接工が、突然辞意を告げてきた。理由は、給料が安いから、という直接的なものだった。健太は、精一杯の条件を提示したが、彼の決意は固かった。

「結局、金か…」

健太は、やり場のない怒りと悲しみに襲われた。懸命に会社を支えてきてくれた従業員が、お金だけで去っていく。しかし、同時に、自分の甘さも痛感していた。彼らにとって、この会社はただの生活の糧でしかなかったのかもしれない。誇りを持って働けるような、未来を描けるような、そんな「働きがい」を提供できていなかったのではないか。会社の理念や目標を共有し、一体感を醸成することも怠っていた。

そんな時、健太は尊敬する同業の社長から、厳しい言葉をかけられた。「健太君、社長の仕事の九割は、陣形作りだよ」。
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