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明智光秀@小説家
ー「裏切り」ー
ある夜、
僕は暗闇の黒より一際目立つ真っ赤に染めた手で、ひとを抱えながら夜街を彷徨っていった。
頭は真っ白になった状態で、どこへ行けばいいのか行手も定まらぬまま、あてどなくただ足早に歩き続ける。
人目の少ない表通りを避け、目の届きにくい裏路地を通って。
(どうすればいい?…どこへ逃げれば?…)
はやる心臓の鼓動、脳内に雑多な悲観的妄想とそれに通ずる手段のための思案が駆け巡る。
思考は物凄いスピードで回転しているようで、一向に同じところをぐるぐる廻ってまるで機能しているように思えない。
そんな激しい試行錯誤の末に唯一、希望を見出せたのは、この辺りに社会人になった今でも連絡の取り合っている竹馬の友の家があるということだった。
昔から親しくしていた村井なら助けてくれるかもしれない。
何より手段を選んでいる暇は無かった。
人目を避けながら、なんとか目的の友の住む家の前へと辿り着き、そっと胸を撫で下ろしてからインターホンを鳴らした。
と同時に、もし村井が手を血に染めた自分を見て、"友として'ではなく、"単なる殺人者'として扱ったらという思いもよらぬ猜疑心を抱いた。
しかし、そんな不安をよそに
「警察に追われている」と僕が伝えると、村上は少し迷い戸惑ってから家に入れてくれた。
僕は村井に今までに至る経緯を話した。
巷で誘拐殺人が起きていた数年前に、彼女もまた誘拐され行方不明になったこと。
それから暫くして容疑者らしき人物の名が上がったが、確証をつくような充分な証拠が揃わず、起訴することができなかったこと。
何よりまだ彼女の遺体が見つかっていないのだ。
そして罪を逃れたその人物を、彼女を誘拐した
男を問い詰めに言ったが、思わず殺してしまったこと。
すると彼は部屋でじっとしているように言い、今晩泊まることをゆるしてくれた。
村井は僕が抱えた男の亡骸と僕の付着した血をとりあえずどうにかするため、風呂を入れに行ってくれた。
村井には本当に助かった。
彼という友がいてよかったと思った。
そんなことを考えながら、僕が何気なく部屋を出てうろうろしていると、一部屋だけ襖のめっきり閉められた和室を見つけた。
ふと襖の部屋を開けてみると、そこには血塗れた彼女が横たわっていた。
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