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ジョドー
西田敏行の偉大さを生前は気がついていなかった気がする。あまりにいるのが当たり前過ぎて、それこそ太陽のようにそこにあって周りを照らしてくれるのが当然のように感じていた。奇しくも私たちが東北旅行に赴いていた時の訃報だった。最終日に福島の郡山に在住する友人を訪ねたのも、偶然とはいえ不思議な縁といえた。
家内の五十年近い友人であるその方によると、西田さんは度々故郷郡山の美術館などに献花することがあったという。十五で故郷を離れて上京して以来、忘れ難き場所として胸に温められていたのだろう。
西田敏行の代表作といっても、数が多過ぎて絞り込めない。その事実に今更ながら愕然とすると同時に、彼がいかに稀有なエンターティナーであったかという事実に気づかされる。敢えて二つだけ選ぶなら、高校時代文化祭で文芸部で上映した「植村直己物語」とハネムーンの帰りの航空機で繰り返し観た「ゲロッパ!」である。
前者は文化祭の余興としてVHSビデオをスクリーン上映したのだが、私自身が当時植村直己をリスペクトしていたので引き込まれて観た記憶がある。後者は今の家内と結婚したものの、ほぼ同時にうつ病に罹患した状態で新婚旅行へ行った。仕事もまだ決まってない状態で約二週間の海外旅行を終え、日本に帰ったらどうしようか。迷いの中で視聴した。
面白かった。特にクライマックスのジェームス・ブラウンが憑依したかのような「Get up!」(これがゲロッパ!に聴こえる)を歌うさまは圧巻だった。泣いて笑って、何か悩んでいる自分が馬鹿みたいに思えた。少なくともあの間は、苦しい現実を忘れることができたのである。
ひょっとしたらここまでどうにか生きてこれたのは、西田さんなど数多くのエンターティナーや表現者の琴線に触れたおかげかもしれない。反則みたいだが、「釣りバカ日誌」シリーズも理屈抜きで楽しめる映画だった。
さようならは言うつもりはない。彼が出演したドラマや映画を観れば、また会えるだろうから。それまでおやすみなさい。



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